「なんなの、ナツメさん。あんな人じゃなかったよね?昔は、明るくて誰からも好かれてて…殴るような人じゃないはずなのに」
「俺も、そう思う」
同調して頷くと、額に掌がびたりと飛んで来る。
…こういうときのメイの動きは、素早い。
「そう思う、じゃないでしょ!あんた殴られてるんだよ?怪我させられてんの!まったく、ゼロジは気が良すぎるっていうか、いつもはっきりしないんだから」
大袈裟に巻かれた包帯が歪む。
転んだ際の腕の擦り傷がぴりぴりと疼く。
こんな風に手当てを受けるのは小学生のとき以来かもしれない。
昔から俺の性質はインドアな部類だったけれど、小さい頃は木登りもしたし身長の倍以上もあるアスレチックにだって挑んでいた。
転ぶのも傷つくのも恐れてはいなかった。
年齢だけを重ねて大人カテゴリに所属をしているけれど、精神的には今のほうが余程子供だ。
物事をはっきり言えない、自信が持てない、他人の顔色を窺ってばかりいる。
そんな自分が、コウとメイの前でだけは昔のままの、子供の俺でいられたんだ。
コウがいなくなったことで、著しく崩れた情緒バランス。
…今の俺は母親を恋しがってむずがる赤子同然だ。


