「お前もメイって子も、そっくりだ。昔からコウを崇め倒して潰しやがったくせに、綺麗事ばかり並べ立てる。だから俺はお前らを許さない」
ナツメがここまで俺とメイを憎悪する理由を不思議に思う。
…突然のことで巧く頭が回らない。
今の状況の不可思議さが先走り、痛みはあまり感じない。
「ゼロジ!」
無気力さで意識が朦朧としかけたとき、見知った顔が駆け寄って来るのが見える。
…どうしてここに、メイが。
ナツメと睨み合う彼女。
…やっぱりメイはヒーローだと思う。
見回りの警官が近づいて来る前に走って逃げた。
俺は情けなさで口を利けずにいた。
視界が涙でぼやける。
色々な感情が一気に圧し寄せて、ひたすらに謝りたくなる。
──メイ、ごめん。ごめん、ごめんな。
『コウを崇め倒して潰しやがったくせに、綺麗事ばかり並べ立てる』
…崇めるという表現に違和感がないことにも、ショックだった。
ナツメが言っていたことの真偽はわからない。
問い質そうにも、コウはいないのだから。
『コウがキサラギメイが好きだって、知ってたか』
『キサラギがお前を好きなのを知った上でお前と』
蘇るナツメの声。
尖った耳鳴りが神経をつつく。
俺はコウのこともメイのことも大切なはずだ。
…それなのに、この醜い気持ちは?
排水溝に溜まったヘドロのような色と質量。
誰に対する嫉妬なのか、怒りなのか、矛先の特定すら出来ない。
宥めるように背中をさするメイの温かい手を振り払いたいような、ずっとこのままでいたいような…焦燥と安堵。


