…ああ、会いたいなあ。コウに会いたい。
そしてそれよりも少しだけ…ゼロジに会いたい。
「キサラギさんって、昔から一途だよね。サクラくんとは今も仲良しなの?」
「え、えっ?うん、まあね。一途って、なに!」
「あー、気づいてないのかあ。俺ね、キサラギさんはサクラくんにベタ惚れだった印象しかないよ。いつも顔に出てたもん。まあ、俺以外は中々気づかないかもね」
…言葉を聴いて絶句してしまった。
私のゼロジへの気持ちはコウ以外にはばれていないと思っていたのに。
力任せに灰皿に圧しつけた煙草が困り果てて屈折する。
同時に、困らせたい訳じゃないんだ、ごめん、と声がした。
「キサラギさんとこうやってまた話せて、調子に乗ったかも。今日は本当にありがとね」
「なに言ってんの、こっちこそ嬉しいよ。もっと早く声かけてくれても良かったのに。イマムラくん…って呼ぶのも変だよね。シュウヤくん?あ、でもホシノさんが呼んでるか」
「もっと砕けた呼び方でいいよ」
「…うーん…じゃあ…シュウちゃん、かな。私のことも名前でいいよ、昔からの付き合いなんだからさ」
「ありがとう。でも俺、緊張してキサラギさんって呼ぶのが精一杯だから。今だってすげー掌に汗かいてて、もう夢みたいだ」
「大袈裟だねえ。シュウちゃん」
「うわ、照れる!」
笑顔で恥ずかしそうに話す彼は昔の「イマムラくん」のままだった。
色々な話をして吐き出して、久しぶりに心から楽しい時間を過ごした。
山盛りのデザートを食べ過ぎたせいで、幸せな胃もたれに襲われる。
帰りのタクシーの中で目を閉じ、二度と戻れない高校時代を想う。
…コウがいない日が来るなんて、悪い夢みたいだ。
──この世界が夢で、目が覚めたら「お前、寝過ぎだよ」って笑ったコウがいたらいいのに。


