「……サエキさん」
「やめ……っ、やめて」
「サエキさん、……ごめん、もうしないから」
「も、ゆるして」
「サエキさん」
「やだ……、」


躊躇いがちに、もう一度手を伸ばす。
焦らないほうがいいかと一瞬思ったが、サエキの肩が震えているのを見ていたら、なんとなく待っていられなかった。
雨は冷たい。
さっきまで狂ったように襲いかかってきていた熱は、もうすっかり冷めていた。

肩に触れようとして、さまよった手を、髪へと伸ばす。
じっとりと濡れてしまった、青い色の混じった髪。
肌に貼り付いているのをそっと避けて、頬に触れる。
指先が冷たくなってしまったと思っていたが、サエキの頬も、同じくらい冷えていた。


「サエキさん」


もう一度名前を呼ぶと、彼女がゆっくりと顔を上げる。
縋るような目でカナタを見た。
両手で頬を包むと、サエキは泣いたままの顔で、目を伏せた。
瞼の上を、雨粒が転がり落ちる。


「戻ろう……?」


さらに温度の低い手を、カナタの手に重ねて、サエキは頷いた。