身を乗り出すように顔を寄せる。
わずかな抵抗を、首を引き寄せてねじ伏せると、サエキは戸惑ったような狼狽えるような表情を浮かべていた。
鼻がぶつかりそうな距離で、サエキの目をじっと見たまま、口を開ける。
制止のつもりなのか、カナタの名前を呼ぼうとしたその下唇に、文字通り噛み付いた。
一度歯を立てただけで、すぐに離れる。
加減がわからなかったので、残念ながら血が出るまでには至らなかった。
今にも泣きそうな目や、真っ赤になった唇から視線を引き剥がす。
瞼を伏せると、膝の擦り傷が目に入った。
吸い寄せられるように、膝頭に口付ける。
サエキが体を震わせる。
ちろりと探るように舌先で掠めると、焦らす間もなく、傷口に舌を這わせた。
「あ、っや」
もう血は止まってしまっただろうか。
そう思っていたので、わざとぐりぐりと抉るように痛め付ける。
ひ、と、悲鳴のような細い声が、サエキから上がった。
ぱっと動いた手を、視線が追う。
サエキは声の漏れた口許を覆って、今にも泣きそうな顔をしていた。
痛いせいか、他の理由からかはわからない。
いけないことをしているような気分に、カナタは昂りを感じた。


