人生の楽しい終わらせ方



「どんな顔?」
「……すっごい、エロい目、してる」
「へぇ?」
「いま、も」


サエキの唇の動きを最後まで確認した瞬間に、カナタは、確かにそれを自覚した。
自分の顔なんて見えないが、彼女がそう言うなら、きっとそうなのだろう。
そう思ったのは、恐らくほぼ間違いなく、サエキも同じような感覚に襲われていると、確信したからだ。
感覚の共有というよりは、似た衝動に動かされている、と言ったほうがいい。

そんな目、を、彼女もしていたのだ。
それはさっきから、ずっと、瞳の奥のほうで燻っていたものだった。


「でも、先にエロい顔したの、サエキさんだから」


あてられたのだと、言い訳みたいにそう言った。
言うと同時に、さっきの緩い拘束とは比べ物にならないほど、一気に両手に力を込めた。

サエキの喉から高い声が漏れて、体がびくんと跳ねる。
すぐに手を緩めると、大きく息を吐いた。

手のひらを引き剥がそうと指を立てているが、まともな抵抗になっていないし、時々手首の傷を掠めるのが、余計に衝動を煽ってくる。

濡れた瞳でカナタを睨み付けるサエキと、目が合った。
へんたい、と唇が動く。
カナタは微笑んだ。


「いいよ、変態で」


もっと触りたいと思った。
触って、サエキの表情が変わるところを見たい。
そう思うことがアブノーマルだと、彼女が言うのなら、それもきっと正しいのだろう。

正直に言うと、物足りない。
もっと苦しげに歪むところが見たい。
泣いている顔が見たい。
発露の形はどうであれ、カナタは確かに、今目の前にいる彼女に、欲情していた。