「痛い……?」
「そんなには」
「ほんと?」
上目で窺うサエキは、カナタの言葉を信じていないようだった。
分かっていて聞いているのだろう。
女の勘、というやつだ。
本当は昨日、風呂場でしゃがみこむほど痛かったが、それでもカナタは痛いとは言わないことを。
傷口に貼り付いたガーゼを剥がすのに、サエキはやたらと時間をかけた。
カナタが痛がらないようにゆっくり剥がしたのではなく、そのほうが余計に痛いと知っていてそうしているのだ。
眉を歪めるカナタの顔を窺っていたわけではないから、きっとカナタの痛そうな顔ではなく、痛そうな傷口のほうに関心を奪われていたのだろう。
決して見た目のいいとは言えない深い傷口を、目を細めて見つめるサエキに、カナタは息を吐くように言った。
「……ヘンタイ」
サエキはようやく視線を上げて、カナタと目を合わせた。
その目には相変わらず、熱の籠った色がある。
「人の痛がってる顔見たがるようなやつに、言われたくないんだけど」
「なに、それ」
「カナタ、さっき自分がどんな顔してたか、自覚ないの」
「……さあ」
サエキの言っていることはわからないが、今の自分があまり機嫌が良さそうではないだろうということは、自覚していた。
彼女の言ったことは図星だったし、わずかに興奮の宿ったその目に、よからぬ気持ちになったのも事実だ。
そんな欲望を見破られていたことに少し苛立っていたし、どうせならいっそもっと、という開き直りのような気分でもあった。
サエキに手首を握られたまま、再び首に手を伸ばす。


