人生の楽しい終わらせ方


「……この間」
「ん?」
「バイト帰りに、会った時」


なんの話かと、一瞬どきりとする。
だがサエキは包帯を見つめたままで続けた。


「手、繋いだの、右手だったから」


少し考えて、ようやく理解する。
いつもの脈絡のない話ではなかった。

あの夜、手を繋ごうと言ったサエキに、確かにカナタは、右手を差し出した。
自然な流れではなく、車道側を歩いていたサエキを、反対側に引き寄せながらの行動だった。
それが、後ろから近付く車からサエキを庇ったわけではなく、左手に触られたくなかったからだと、気が付いたというのだ。
カナタは、小さな苦笑いを浮かべるしかなかった。


「エスパーかよ」
「女の勘だよ」
「こわ……」


包帯を外し終わったサエキは、傷口に当てたガーゼを指先で摘まんだ。
昨日シャワーを浴びた時にうっかり傷口を開いてしまったから、まだ傷は塞がっていないはずだ。
案の定、サエキがガーゼを引っ張ると、貼り付いた皮膚が引き攣れるような感覚があった。
わずかな抵抗を感じたのか、サエキも動きを止める。