2


「あ、ここ見てっていい?」


雑貨屋の入り口を眺めながらサエキが言うのに、カナタは「うん」と低く返事をした。

サエキはさっさと入って行って、指輪をひとつ取り上げてみたり、ペンダントの飾りをちょっと触ってみたりしている。
カナタは、手持ち無沙汰に後をついて行くだけだ。

やがてサエキは、サンダルやパンプスの並んだ棚で足を止めた。
今履いているのと似たような、コルクの底のサンダルを手に取っている。


「新しいの買うの?」
「うーん……さっき轢かれちゃったし」
「壊れてなかったじゃん」
「でも汚れてボロボロ」


そう言うので、カナタはちらりとサエキの足元に目をやった。
オフホワイトのレースには土埃がまぶされ、少しほつれてしまってもいる。
列車の車輪を掠めたせいなのかはわからないが、汚れてしまっているのは確かだった。

サエキはあちこちから取り上げて、ストラップをじっと見つめたり、ひっくり返して底を眺めたり、中敷きの手触りを比べてみたりしている。
長くかかるならと傍を離れようとすると、細い手が伸びてきた。
カナタのほうは見ないまま、袖を掴む。


「ね、これとこれならどっちがいいかな」
「……なんで俺に聞くの」
「それが私の買い物の方法なの」
「え、一人の時は」
「店員さんとお喋りして決める」


めんどくせえ、と、声には出さなかったのに顔と雰囲気には出ていたようで、サエキがキッと視線を寄越した。
アイラインで目尻を無理矢理つり上げたような目をしている。


「カナタが遅れたからサンダルが汚れたんだよ」
「なにそれ」
「一時に駅裏のコンビニだって言ったじゃん。なのになかなか来ないから、本屋で時間潰そうと思って、踏み切り渡ったら」
「サンダル引っ掛けて、うっかり死ぬとこだったって?」
「そーゆうことです」


正しいのか間違っているのか、よくわからない主張だ。

確かにカナタが十五分も遅刻したりしなければ、サエキが踏み切りを渡ることはなかったかもしれないが、逆に、サエキを踏み切りから助け出す人もいなかったかもしれない。
時間に遅れたことは悪かったと思っているが、それとサエキが新しいサンダルを買うことと、なにか関係があるのだろうか。

考えるのが面倒になって、サンダル選びに付き合うくらいならと、サエキに向き直った。