13

土砂降りみたいな音に、サエキが振り返った。
木々の間に細い遊歩道があって、その奥から、絶えず水音が聞こえている。

足元は固い地面なのに、雑草がぼそぼそと生えていた。
たかが葉っぱに、自分とは正反対の逞しさを感じる。
カナタはスニーカーの爪先でそれを小突いた。
サエキも、ヒールの厚いサンダルやパンプスではなく、レモンイエローのキャンバス地のスニーカーを履いている。
サエキがカナタの方を向いて、木立の奥を指差した。


「カナタ、あっち行ってみよう」


そう言って、一人でふらふらと歩き出す。
指を差した遊歩道ではなく、その入り口の横に立っている看板に近寄って行った。
カナタがあとを追いかけると、見やすく色分けされた地図を見上げて、人差し指を立てている。
今ここでしょ、と呟いて、その指を動かした。


「この道の途中で左に行ったら、川に出るって」
「うん」
「水の音聞こえるし、すぐかな」
「どうだろ」


気のない返事を返して、カナタはサエキの横顔を見た。
肌寒い場所に来たせいか、頬が少し赤くなっている。
たぶん、カナタもだろう。

郊外の山の中腹にある、キャンプ場。
キャンプでも、バーベキューでも、レジャーデートでもなく、他の目的のために、わざわざバスに乗ってこんなところまで、二人は来ている。
それはいつだかにサエキが話していた、理想の死に方を再現するため、だった。

気温が低く、大きくもなく小さくもない川の上流で、ある程度人里から離れていて、それでいて全く人が来ないわけでもない場所。
それがサエキが求めていた条件で、このキャンプ場が、その候補に上がったのだ。