12
「帰ったのかと思った」
サエキはぽつりと呟いた。
思いの外拗ねたような声色になってしまって、悔しくなる。
カナタはガードレールに腰掛けたまま、横目でサエキに視線を送った。
「帰ったほうがよかったの」
「そんなこと言ってないじゃん」
「サエキさん、あそこでバイトしてたんだ」
「……助けてくれればよかったのに」
「さっきの人? 嫌なの」
「嫌っていうか……興味ない」
「そうなの?」
「なに? 別にいいじゃん」
いつの間にか尖っている唇に気付いて、きゅっと引き結ぶ。
こんなことが言いたいわけではないのに。
カナタの横顔を見ながら、言葉を選んだ。
「カナタ……えーと、家、この辺なの」
言ってしまってから、間違えた、と思う。
明らかに話題の選択を間違えた。
こんなことを聞いていい仲では、ないはずだ。
さっきからどうも、口がうまく回らない。
カナタはまたちらりと視線だけ送って、前を向いた。
静かに声を出す。


