(電話、もう一回かけてみようかな……)
1.5リットルのペットボトルはやめて、もう一度携帯電話を取り出す。
せっかく作ったのにあまり役立っていない、カナタ専用のメールフォルダ。
電話はいつも発信履歴ばかりで、しかもその三分の一は留守番電話に変わって終わる。
けれど、なにも意識しなくても、指がリダイヤルの操作をしそうになっていた。
今はまだ心の準備ができていないけれど。
今晩。
あとで一度、かけてみよう。
電話に出たら、あのホテルへ行こう。
そう思った、その時だった。
「……カナタ?」
見覚えのある後ろ姿に、サエキは小さな声を出した。
肩が小さく揺れる。
声でサエキだとわかったからなのか、本名ではない名前で呼ばれたからなのかは、わからない。
恐る恐る振り返ったカナタは、珍しく心情のあらわな表情をしていた。
(……あ、)
驚いたように大きくなった目が、すぐに逸らされて、そのままうろうろと泳ぐ。
わずかにしかめられた眉。
唇は、なにか言おうと開いて、なにも言わずに閉じた。
困ったような、にがい顔で、カナタは呟く。
「……ひさしぶり」


