手にしたカッターナイフを、右手に握りしめる。
暗くて動きのない部屋に、かち、かち、と音が響いた。
鈍い銀色の刃が、姿を現す。
サエキが怖いと言った、鋭い刃物だ。
また、内臓がぐにぐにと掻き回されているような、気持ちの悪さを感じた。


(……気色悪い)


逆手に握り変える。
振り下ろすようにして、カッターナイフを取り出した棚の上に突き立てた。

がん、という音。
刃が折れそうだ。
手を引こうとしたら抵抗を感じて、力任せに抉り抜く。
猫のぬいぐるみの腹から、細かいパウダービーズがさらさらと流れ落ちた。
昔映画で観た轢死体みたい、かわいそう。

ずぶずぶと何度か突き刺してから、荒い溜め息を吐く。
これが本当に生きているものだったら、内臓が細切れになって、ぐちゃぐちゃになって、血がとろとろと際限なく溢れ出てきてしまうだろう。

気持ち悪い、気色悪い、いらいらする。
血が沸騰しているみたいだ。
この感覚を追い出すには、きっと、この血ごと外に流してしまうしか方法はない。
死んだ猫はまだこっちを見ている。
反射的に肩が跳ねて、猫を乱暴に払い落とした。

カナタは優しいね、というサエキの声が、脳裏を過った。
舌打ちが出る。喉が苦しい。
カッターの刃は、思ったよりも冷たくなかったし、切れ味も鈍っていた。