ベッドから下りて、テーブルの携帯電話へは向かわずに、引き出しのついた小さな棚へと近寄る。
その上に無造作に置かれたキーホルダーと、目が合った。
初めて顔を合わせた日にサエキにもらった、かわいくない、猫のキーホルダー。
機嫌の悪そうな目が、こっちを見ている。

上から三段目の引き出しを開けた。
そこにはボールペンやハサミなど、文具が無造作に散らばっている。
その中から、そこにあるぶんにはまったく違和感のないものを取り出して、カナタは窓へと体を向けた。

なんだかずっと苛々して、気分が収まらないのだ。
着信ランプが光った途端に、その昂りは爆発しそうなほどに膨れ上がった。
気持ちの悪い高揚感。
なんとなく自分じゃないみたいなこの感覚を、とにかく追い出したくなった。

本当は、自殺になんて興味はないのだ。
ただ、サエキの死ぬところを見てみたくて、たまらなくなっただけで。
きっと彼女なら、誰よりも綺麗に死んでみせるだろう。
誰よりも印象的に、誰よりも美しく、誰よりも穏やかな顔で、誰よりも苦しんで死んでくれる。
それを、自分に見ていてほしいと言ったのだ。