「南のほうの、キレーで透き通ったカラフルな海なんかじゃなくてさ。暗くて深くて冷たい海。ここから見える海」


あぁ、なんだ、自覚はあったのか、と思った。
この町で見える海が、美しくないという自覚だ。
カナタだってこれまで暖かい綺麗な海を見てきたわけではないが、こんなに排他的な色をした海は、他に見たことがなかった。
視線をサエキのほうへは向けきらずに、言う。


「……俺ってそんなに根暗っぽい?」
「あは、かなりね」


サエキの方こそ、海に浮かんで漂うような話し方をしている。
ふらふらとか、ゆらゆらとか、そんな音が似合っていた。

「クリオネに似てるね」とサエキが言った。


「ひらひらしてて掴み所なくって。ほんとにいるのかどうかわかんないし」
「クリオネ? ちゃんといるよ? 水族館とかにも」
「見たことあるよ。でもさ、水から出したら消えてなくなっちゃいそうじゃん」
「あぁ……そうかな」
「私はそう思ったの。綺麗なのって水の中だけかなって」
「ふぅん……」


曖昧な相槌を打つ。
単純に、面白いことを言う、と思った。

クリオネのいる水槽に手を入れて掬いあげたら、そこにちゃんといるのだろうか。
なにが残るのだろうか。