カナタはベッドから立ち上がって、壁際に座り込んだ。
窓から、暗くなった海が真正面に見える。
街灯は一本もない。
ぎしり、と音がする。

いつの間にか、陽が落ちきっていた。
部屋の中のほうが明るいせいか、窓にぼんやりこっちの動きが映り込んでいる。
ベッドのほうは見ないままだったが、サエキが立ち上がったのだとわかった。
カナタの隣に座って、一度立ち上がって、部屋の隅のライトを消して、また戻ってくる。

暗くなった部屋で、二人で並んで海を眺めていた。
サエキが、ぽそりと声を出した。


「ここで死のうかな」


カナタは、ちらりと隣に視線をやった。
サエキは真正面を向いたままで、月も出ていないのに明るい水平線を見つめているようだった。
サエキの横顔を見る時、いつもその先には海があると気付く。


「海を見ながら死にたいの」


尋ねると、うぅん、と唸りながら、首を傾げた。
自分で言ったくせになんだ、と思いながら、無言で続きを待つ。


「カナタってさぁ、海みたい」


サエキが次に言ったのは、そんなことだった。
脈絡はない。
相変わらず、ぼんやりと窓の向こうの海を眺めたままだ。
疲れてねむくなっているのだろうか、とちらりと思った。