パンを一つと唐揚げを二つ食べただけで満足したサエキは、ベッドに倒れ込んだ。
今日は、家からマットレスを運んできて、整えたりしていたらしい。
目立つことこの上ないが、ちゃんと慎重に周囲に気を付けながら運んだから平気だ、とサエキは言っていた。

この近辺は近くに民家もなく、ホテルやレストランのある辺りからも、少し外れている。
完全に寂れた一角なのだ。
今のところ、人通りがあるのを確認したことはほとんどない。

もっとも、もし今日のサエキが誰かに見られていたとしても、不法投棄を疑われるだけで、誰もこんな廃墟に運び込んで私物化しているなんて思わないだろうが。

カナタは残った唐揚げとおにぎりをすべて片付けると、ベッドに近寄って行った。
マットレスを置いた上に、ブランケットが敷いてある。
サエキが転がるたびに、過剰なほど音を立てて、スプリングが軋んだ。
足元に腰かけると、切れたスプリングが太ももの裏に当たる。


「どう、私頑張ったでしょー」
「普通ここまでしないよね……寝るの?」
「んーん。寝心地最っ悪」


そう言いながらもサエキは、楽しそうに笑っていた。
やはり、秘密の隠れ家を手に入れたような気分なのだろう。
秘密基地で喜ぶとか子供みたい、と言うと、サンダルを履いたままの爪先で、背中をつつかれた。
この間買っていたのとは違う、底の薄いサンダルだ。