錆びたロックを無理矢理回す音がしてから、ドアが開いた。
薄暗がりに見える顔が、悪戯っぽくにやりと笑っている。
「サエキは私の名前だけどー?」
「はいはい」
「合言葉決めようか?」
「マジで言ってんの? やだよ」
「ノックでもいいよ」
「じゃあ俺が一回のあとに、サエキさんが百回全力でノックして。それでビビって帰らなかったら俺だから」
「私の腕が死ぬだろーが」
笑いながら言うサエキに、くすりと笑いを返して、カナタは手に持った袋を持ち上げた。
「ごはん」
「ありがとー」
「サエキさん」
「ん?」
「や、サエキって、名前」
ペットボトルのラベルの文字は読めないが、相手の顔を見るのには困らない。
そんな暗さの中、サエキが不思議そうに振り返る。
「俺しか知らないでしょ。合言葉、いらないじゃん」
「あぁ、そっか」


