人生の楽しい終わらせ方


 7


なんと言っているのかわからない店員の声を背中に受けて、カナタは店を出た。
コンビニエンスストアで、ペットボトルの飲み物を二本と、パンを二個と、ホットスナックをいくつか適当に。
そんなものが入った袋を下げて向かったのは、今日もあの廃ホテルだった。

あのホテルに忍び込むようになってから、一週間ほどが過ぎていた。
サエキは空いている時間を見つけては掃除をしに通っていて、カナタがこうして呼び出されて差し入れを持って行くのも、三回目になる。

暗くなりはじめた道を、海に向かってまっすぐに歩いて行った。
頭の上を、気持ち悪いほどたくさんのカラスが、カナタとは反対方向へ飛んで行く。
館山(やかたやま)に帰るのだ。
赤紫の空が、海に映っている。

周囲に人がいないことを確認して、ドアを押し開けた。
近くに民家はあまりないが、誰かに見られれば、通報されて当然のことをしているのだ、という自覚はある。
隣の倉庫との間にある裏口から出入りできればいいのだが、鍵が錆び付いてて、どうしても開けられなかったのだ。

三階まで階段を上がると、真っ暗になった廊下の一番奥の扉をノックする。


「俺。開けて」
「オレオレ詐欺かよ」
「……サエキさん」