ホウキが二本に増えると、作業は格段に速くなったように感じた。
きっと気のせいだろう。
なにしろ、ずっと腕を上げて窓拭きをしていたサエキは「腕がぷるぷるする」と言って、ホウキを持ってはいるものの、それほど動かしてはいなかったからだ。
常に埃が舞っているせいで淀んだ空気に、換気窓から潮風が混じり込む。
「いやーまじ腕動かない」
「そりゃあ、あんなでかい窓拭いてたらね」
「私すげー頑張ってる」
「そうだね、偉いね、不法侵入だけどね」
「ねぇカナタ、これさぁ」
小さなトゲのあるカナタの言葉は無視して、サエキはホウキをぶら下げたまま、ベッドに近寄って行った。
窓に向かって右側の壁に、ヘッドボードをぴったりつけるようにして置かれている。
壊れてはいないようだが、マットレスはもちろんぼろぼろだし、埃と湿気をたっぷり吸い込んでいるだろう。
試しに端だけ持ち上げてみる。
「どうする、コレ」
「裏返してみる?」
「ベッド、使いたいの」
「だって秘密基地だよ?」
「あ、やっぱりそういうつもりで」
「うちに使わないマットレスあったから、持ってくる」
「そこまでするの……」


