だがその疑問は、すぐに解消された。
三階に三部屋あるうち、一つの部屋の窓ガラスが、大きく割れていたのだ。

カーペットには鳥の羽毛やフンがたくさん落ちている。
雨風を凌ぐ場所か、巣穴代わりにしているようだ。
ドアの下の1センチメートルほどの隙間から、風で羽根が階段のほうまで飛んでいったのだろう。

生き物の出入りがあるせいか、そこは他の部屋よりも格段に荒れが酷かった。
ガラスというガラスは割れているし、ベッドもソファも汚れてめちゃめちゃだ。
「ホテル暮らしなんて贅沢な鳩だなぁ」とサエキが呟いた。

隣の部屋に移動する。
海に面した部屋で、確か、外からも大きな窓が見えた。
きっと、このホテルで一番いい部屋なのだろう。
といってもただのビジネスホテル、しかも二十年も前に潰れてしまったらしい廃墟で、いいもなにもあったものではないが。

これまで使わなかった鍵は、あと二つだ。
どちらかがこの部屋の鍵であることに間違いはない。

カナタが両手に鍵を摘まんでみせると、サエキは人差し指を立てて、二つを順番に差す動作をした。
どちらにしようかな、とやってから、カナタの右手を取る。


「こっち」
「ん」


鼻だけで返事をしてから、カナタは、サエキが選んだ鍵を、シリンダーに差し込んだ。
奥まではきちんと入る。
右に回そうとすると、じゃり、と錆がざらつく感覚が、手に伝わった。


「開く?」
「ちょっと待って。……回った」


かたん、と中で音がする。
砂埃に覆われたノブを握る。


ドアを開くと、そこには、海があった。