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そのまま海沿いを、だらだらと話しながら歩いていた。
スカスカで風船より中身がないような、ぎっしり詰まりすぎて引き摺るほど重たいような、少なくとも生産性はまったくない会話だ。

そんな時、ふとサエキが、声を上げた。


「あ、これ……?」


カナタもつられて、視線の先を追う。
サエキは、海に面して立った、小さなビルを見上げていた。

元はなんだったのか、古くてぼろぼろの、四階建てほどの建物。
外壁には赤茶色のレンガが使われているが、長年潮風に晒されていたのか、崩れて剥がれてしまっているものが多い。

看板は出ているが、割れたり消えたりしてしまっていて、読み取れない。
唯一判別できた文字は、アルファベットの「E」だった。


「なに?」


カナタが尋ねる声には答えないまま、サエキはそのビルへと近づいて行った。

隣には緑色のシャッターの降りた建物がある。
反対隣は、「セガワサイクル」と看板のついた、一階部分が大きなガラス張りになった建物。
シャッターは錆で半分茶色くなっているし、ガラスは原型はあるものの埃で真っ白になってしまっていて、どちらもとっくに人の出入りのなくなった建物だとわかった。

そんなものばかりが並んだ道で、特に浮いているわけでもないそのビルに、サエキはなぜか興味を引かれたらしい。
同じく汚れて曇ったドアに、そっと触れた。

押してみるが、動かない。
試しに、引いてみる。
ぐぐ、と音が鳴った。

ぱっと振り返ったサエキの目は、大きく開かれていた。