「ネットだと線路と首吊りが推されてるじゃん。なんでなの?」
「身近な死に方だからじゃない? 投身なんか毎朝みたいに自分の乗る路線でやられてるんだよ。それに見た目が派手なの知ってるから、確実に死ねる気がしてるんじゃないの」
「他の人が毎朝やってるからって、自分もしていいことにはならなくない? 自分だっていっつも困ってんじゃん」
「自殺志願者が言う台詞かそれ」
「うわ、確かに……すげーシュールな話してんね、私たち」


それも今さら言う台詞じゃないよ、と思いながら、カナタは頭を振った。
目にかかっていた長い前髪が、風で後ろに流れていく。


「まあ……準備がいらないから、思い立ったら吉日みたいな感じでできそうではあるかもねぇ」
「そのメリットがでかいのかも。自分はただ一歩飛び出せばいいだけだし」
「首吊りもそっか。紐一本あればいいんだもんね。ちょっと首に引っ掛けて体重かけるだけで、すぐ意識飛んじゃう」
「勢いつければほんと一瞬だって」
「ねえ、どうして皆手軽に死にたがるかなあ」


サエキがそう言うので、カナタは、隣に目をやった。

サエキもカナタと同じように、風に向かってふるふると頭を振る。
前髪の生え際、ぎりぎりのところだけが黒くて、あぁ、この人も自分と同じような種類の人間だったと、改めて思った。

決定的に違うのは、大雑把に言えば、頭の中くらいのものだろう。

サエキは陽の光を反射するきらきらの海面から目を伏せて、言った。


「どうせ死んだら楽になるんだから、死ぬ時くらいちょっと苦しかったって、痛かったって、いいじゃんね」


なにもしないとはじまらないんだよ、と、終わらせるためになにかしている少女は、呟いた。