「するね、する、すげー垂れ流し」
「全身の筋肉から力抜けちゃうんでしょ」
「うん、縦だしね、重力で中身落ちてきちゃうんだよ」
「……内臓も出るって聞いたけど」


笑いながらする話ではないと今さらながら思って、カナタは口をきゅっと引き結んだ。

サエキは相変わらず難しい顔をしている。
まさに恐る恐る、といった表情だ。
もしかして、首吊り自殺を本気で選択肢に入れていたことがあるのだろうか。


「内臓、はたぶん平気だと思うけど……夏場発見が遅いと、傷んで出てきちゃうってことかな」
「首は? 取れる?」
「え、首? どうかな。そう簡単には取れないと思うけど」


海の匂いのする風が、髪の間を通り抜ける。
今は暑さは感じないが、なんとなく首筋がべたついていた。
帰ったらすぐシャワーを浴びることを心の中で決定して、風に顔を向ける。

こんな爽やかな日の海を眺めながら、自殺体の腐乱状況の話をしているなんて。
目を細めた。


「首吊り成功させるにはね、発見が早いと絶対だめだって。だからなるべく発見されにくい、できれば室内がいいんだって」
「うん」
「でも私、室内で死ぬのは嫌なのよ。いつ見つけてもらえるかわかんないし」
「まぁ、そうだね……誰かに発見されたときには、身元の判別できなくなってるかもしれない」
「そうなんだよ、だから私、首吊りが一番嫌かな」


カナタは鼻を鳴らして返事をした。
今のところ、事前準備がほとんどいらない方法、死ぬ瞬間に痛みの少ない、いわゆる代表的な自殺の方法が、ことごとく否定されている。

そもそもさぁ、とサエキは言った。