「でもお金作る時気を付けないと……お母さんに迷惑かかっちゃうかな」
「サエキさん、母親と暮らしてるの」
「うん。だから自宅はだめだね」
「だからそんなに条件多いわけ?」
「そうかな……あんまり考えたことなかったけど」
汗をかいたグラスの中身を、ストローでくるりと回す。
からんと音が鳴って、溶けかかった氷がくしゃりと崩れた。
サエキの手元を見ると、同じようなことをしていて、同じように氷は小さくなっていた。
「でも、そうだね。顔はこのままで残しておきたいっていうのは、そういうことなのかも」
「最期にいつも通りの顔見てほしいって? お母さん想いだね」
ずいぶん平坦な声を出す、と自分で思った。
カナタさ、とサエキが言う。
だが彼女は、そのあとを続けることはなかった。
なにを言おうとしたのか、なんとなく察することができたし、どうして途中で言うのをやめたのか、それもわかった。
考えてみればさっきの自分の発言だって、少し詮索が過ぎたかもしれない。
他意はなかったし、サエキもそう理解して、自宅を死に場所にはできないと答えたのだろう。
「あぁ、そうだ。ね、カナタ」
「ん?」
唐突にバッグの中を探りはじめたサエキは、手に持ったなにかを、テーブルの上に置いた。
10cm四方もない、小さな紙の袋だ。
「これあげるよ」
そう言って、自分で袋を開ける。
口を留めたテープを雑に剥がして、そうして中から取り出したものを、カナタの目の前にぶら下げた。
ゆらゆらと揺れて全くこっちを向かないそれを、カナタは五秒間見つめて、言う。


