サエキはカナタから銃口を外して、テーブルに肘を突いた。
手のひらの上に、顎を乗せる。
視線もカナタからは逸れて、窓の外の空に向かっている。
彼女が思わず死んでしまいたくなったほどの、真っ青で透明感のない空だ。


「自分の体から吹き出た血の上に倒れ込むっていうのも、ちょっとやってみたいんだよね」
「……なら、拳銃じゃないでしょ。結構汚いよ?」
「えぇ……カナタが全部見ててくれるんでしょ? 私が死んだあと、綺麗にしてよ」


するりと視線が戻ってくる。
口許に浮かんだ笑みは、少し蠱惑的だったが、一瞬で悪戯っぽいものに変わってしまった。

カナタは薄くなったアイスコーヒーを一口飲んでから、口を開く。


「いいけど、それじゃ俺、自殺幇助か死体損壊で捕まっちゃう」
「え、それは駄目だなあ……」


途端に眉をしかめたサエキは、思い出したように、アイスティーのストローを口にくわえた。

あくまで自分の死によって他人に迷惑がかかることは避けたいらしい。
だとしたら、カナタを呼び出して死に方を相談するというこのことは、迷惑ではないと思っているのだろうか。

基準はよくわからないが、確かにその通りで、カナタも迷惑に感じているわけではなかった。
自殺幇助にはすでに手を染めているようなものだし、なんだったら遺体損壊だろうが殺人だろうが、捕まったって別に問題はないと思っていたのだが。


「そもそも拳銃をどうやって手に入れるつもりなの」
「え? そんなのどこだって買えるでしょー。館町って案外ガラの悪い町だからね」
「そうなの?」
「そうなのよー。銃撃事件とか銃殺事件も、たまーにあるよ」


確かに、夜なのにサングラスをかけた中年男性が、深夜のスーパーマーケットをうろついていたりするのを、よく見かけてはいた。

だがこんな小さな田舎町で、拳銃沙汰まであるとは。
観光地として中途半端に発展しているせいだろうか。
それともやはり、港町にはそういう人種が集まってくるものなのだろうか。