「低すぎる声、好きじゃないんだ。大きい声も」


思い出すから、だろうか。
過去のなにかを。

サエキは囁くような細い声で、言葉を続ける。


「カナタが自分の声嫌いでも、私には心地よかったし、カナタの手は指が長くてきれいで好きだし」


必死に話すのが、わずかな振動で伝わる。
背中が熱い。


「柔らかくても、睫毛が長くても、どんなに細くても、体がどうでも、カナタには恥でも、私にとっては」


突然声が止んだ。
言葉に詰まったサエキが、ひゅうと息を吸い込む。

カナタは、何も言わなかった。
言えなかったというのが正しい。

どういう意味、と言おうとして、躊躇いながら口を開いて、やめた。
唇も眉も視線も強張る。
動揺しているし、混乱しているし、困ってもいた。


「ねえ」


サエキの手が伸びてきて、指先が背中に触れた。
肩が小さく跳ねる。


「最後のお願い聞いて」


なに、と、掠れた声で、ほとんど吐息で、返事をした。


「理想の死に方じゃなくていいから、一番カナタの記憶に残る方法で、私を死なせて。」

「最期に好きになった男の子のままで、私をころして。」