口を開くと、思っていたよりずっと低く、ずっと冷静な声が出る。


「……無理」


サエキの肩がびくりと震えて、言葉が止んだ。
ぱっと体を離す。
もうあられもないほどの泣き顔で、カナタを見る。


「な、にが」
「抱けないし優しくもできない、一緒にもいられない……ごめん、サエキさんの理想の死に方、見つけられなかった」
「なんで過去形なの、なんで」


ちら、と目を合わせた。
それだけでカナタが何を言ったのか、わかったらしい。
それを聞くの、ということだ。


「やだ、いてよ、ここにいて」
「駄目だって、サエキさん」
「だめじゃないよ、なんにもしてくれなくていいから、私のこと嫌いでいいから、好きに殺していいから、やらしいことでもなんでもするから、」


それは懇願だった。
聞いていられなくて、静かに深呼吸する。
ぼろぼろと涙を落とすサエキから、すう、と目を逸らす。


「いらないよ、そんなの駄目だよ」
「なんで、私じゃだめなの?」
「あのさ……俺だって、抱いていいならとっくにしてる」
「じゃあ」
「でもできないの」
「だからなんでよ、わかんないよ」
「無理なんだよ、だって」
「全然わかんない、」
「俺っ、」


瞼を伏せたまま、顔を上げられなかった。
怒鳴った時みたいに震えた声は、思いのほか小さくて、それでもサエキは一瞬息を呑む。


「俺、」ともう一度言って、冷たい空気を吸い込む。


「……ついてない、から」


顔を上げられなかった。