眉を歪めるサエキに、カナタは続けた。


「ちなみに、サエキさんが立ってた踏み切り。あんな見通しのいいとこじゃ、轢く前に余裕で止まれると思うよ」
「え、うそ」
「死ぬ気で線路に侵入したのに10メートルも前で列車止まっちゃって、しかも賠償請求されるなんて、恥ずかしすぎじゃん」
「た、確かに……」


そもそもサエキは、人の記憶に残るような目立つ死に方をしたいとは言っているが、人に迷惑をかける死に方は望んでいなかったはずだ。
ならば、線路へ飛び込む方法は最悪の手段といえる。

カナタはサエキと言葉を交わしながら、テーブルに敷かれたメニューをちらりと見た。
遅刻しそうになって昼食も食べずに急いだせいか、空腹を感じている。
なにか軽いものでも頼もうか、と考えた。

死ぬことを話しながら食べることを考えるなんて、変だ。
さっきサエキに感じたのと似たような矛盾を孕んでいる。
まるで生きることを前提としているかのようにして、死にたがっているのだ。

カナタの場合は死にたいというより、生きていなくていい、というほうが正解かもしれない。

向かいのサエキはきゅ、と顔を上げて、話題も変えた。


「銃はどうかなぁ」
「銃?」


「そー」と言いながら、サエキは、人差し指を伸ばして、親指を立てるジェスチャーをした。
人差し指の先を、こめかみに当てる。


「こっちじゃないの」


カナタは同じ手振りをしたが、指先は口の中から喉の奥へと向ける。

拳銃自殺といえばこめかみ、というイメージがすっかり定着してしまっているが、実際はこめかみを横から撃つ方法はあまり正確ではないらしい。
手に入りやすい小さな口径の銃だと、固い頭蓋骨で跳弾したり滑ったりして脳に達しなかったり、腕が揺れて狙いを外してしまったりして、うまく撃てないのだそうだ。