人生の楽しい終わらせ方


小さなナイフ越しに、サエキの緊張と恐怖と怯えが伝わってくるような気がした。
狼狽えた目の動きが、薄く開いた唇から漏れる荒い息遣いが、所在なさげにみぞおちのあたりで握られる白くなった拳が、堪らない。
俯いた頭を撫でると、青混じりの茶髪が一筋、ぱさりと瞼の上にかかった。
それを手櫛で避けてやりながら、梳いた髪ごと、後ろのフェンスに指を絡ませる。


「……っ、」
「痛い? こわい?」


赤の他人に死に方探しを手伝わせたり、無邪気に距離を縮めてきたり、笑ったり怒ったり泣いたり、不用意に触れてきたり。
名前を呼んだり、キスしたあと、照れたみたいに目を伏せたり。
会いたくないと言いながら、身の危険を感じた時に思わずカナタを呼んでしまったり。
目の前で無防備にフェンスの向こうを覗き込んだり。

そういう警戒心のなさが、嫌で、心地よくて、気持ち悪かった。
だから、違う顔が見たくなったのだ。


「ねぇ、もっと嫌がんなよ」


微笑みながら言うカナタを、サエキはちらりとも見ようとしなかった。
下を向いたまま、ずっとナイフの刃先を目で追っている。
こわいのに、本当は見るのも恐ろしくてたまらないはずなのに、なにかがそうさせるのだろう。

彼女の目をそらせなくさせているのは自分なのだと、カナタは思った。
怖くて動けないのも、身を硬くして震えているのも、唇まで青ざめさせているのも、ぜんぶ自分のせいだ。
目を細めた。