人生の楽しい終わらせ方


「こわい?」
「べつに」
「つまんないなあ」


耳たぶを掠めた指先が冷えていたのか、サエキがやっと反応らしい反応を返す。
それでも無表情は相変わらずで、カナタは顔を寄せながら、「ねぇ」と囁いた。


「その、ごろごろいる、俺みたいな人たちはさ」


額を合わせても、サエキは目を上げなかった。
視線の交わらない瞼を見ながら、口許が笑うのを自覚する。
ぶつかった鼻が冷たい。


「やっぱりきっと、こういうの、好きだよね」


顎に添えられたひんやりしたものが、カナタの指先ではないことに気付いたサエキが、はっと目を見開く。
ナイフの刃が、輪郭に沿ってゆっくりと下へ降りていくのを、サエキの目が咄嗟に追った。

尖った先が、肌を傷つけないように首筋を通る。
パーカーの襟元を避けて、鎖骨を辿る。
それがTシャツの襟ぐりに引っ掛かって止まった瞬間に、劇的なほど、彼女の全身が強張った。

その時のカナタの高揚感といったらない。
生まれてから今まで、こんなに昂ったことはなかっただろう。
背中にぞくりと寒気が走る。
血管に強いアルコールが滲み流れたみたいな、言い尽くせないほどの快感だった。
声に吐息が混じる。


「あんたのその顔……、ぞくぞくする。最高」