「あたしのこと、殺したいの」
「聞くの?」
「殺したいんでしょ」
「そう」
「人殺したいんだよね。自殺したいんでも、人が死ぬところみたいんでもなくて」
「だよ」
「ねえ、私、前から知ってたよ」
笑った顔のまま首を傾げると、サエキは小さく溜め息を吐いた。
なんでバレちゃったかな、というカナタの疑問を、正確に読み取ったらしい。
「あのスレ、もうずっと見てないでしょ」
「うん。なんか脱線気味だし」
「その脱線だよ。今じゃね、あんたみたいなのごろごろいるの。自殺の方法と人の死に方にやけに詳しくて、汚い方法が嫌いで、こだわりの強い奴」
「へえ……気が合わなそう」
「人、殺したいんでしょう?」
「誰でもいいわけじゃないよ」
「そういうところもおんなじ」
自殺志願者の集まる場所だったはずの掲示板は、今やただの死と殺意に惹き寄せられた人間の吹き溜まりになってしまっているらしい。
他にない死に方を考える、とタイトルのついたスレッドも、サエキの手を離れてしまっている。
それでも時々は猟奇の渦巻くそこを覗いていたサエキだからこそ、気づいたのだろう。
カナタはきっと、この中にいて然るべき人間だと。
冷めた視線で見上げるサエキの前に、カナタは膝を突いた。
顔を背けた彼女の頬に、手を伸ばす。
抵抗はなかった。


