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「飛び込みってさあ、そんなに致死率低いの?」
ストローをくわえながら、サエキが言う。
外は相変わらず雲一つない青空で、八月も終わるというのに、歩いていると汗が流れてくるほどだった。
早々にファーストフード店に逃げ込んで、涼しい店内で、氷の入ったグラスを傍らに言葉を交わしている。
言葉を交わす、というのがそもそも、カナタにとっては新鮮だ。
これまでサエキとは、文章でのやり取りは幾度となくしていても、音声は一度も使ったことがなかったのだ。
アイスコーヒーのグラスについた水滴を指先でなぞりながら、カナタは答えた。
「致死率は……車体の速度によるんじゃないかな。ドラマや映画なんかだと、駅のホームに入ってくる電車に飛び込んだりしてるけど、止まる直前で速度落としてる電車じゃ、たぶん死ねないと思う」
「あ、そーか、速度か……」
「現に列車の人身事故って年間600件以上起きてるらしいけど、死者数は300人台だし」
「五割かあ……」
サエキは顔をしかめた。
アングラサイトにあがる閲覧注意画像の多くは、事故死した遺体の写真だ。
見ようと思わなくても、例え見たくなくても、思いもよらないところから目に入ってくる。
サエキもそういった画像のせいで、飛び込み自殺を失敗するとどんな惨劇が待っているか、よく知っているのだろう。
線路への飛び込みは、数ある自殺方法の中でも、後遺症の重さが断トツだと言われている。
車輪に巻き込まれれば、体の一部を欠損したり神経を傷付けたり、大怪我は免れないだろう。
だがそのわりには、急所が線路に乗っていたり、速度の出ている車体に勢い良く跳ね飛ばされたりしたのでない限り、意外と即死はしないものらしい。
死のうとして失敗しても、手足が切断されたり半身不随になったりしたのでは、その後の生活が余計に辛くなるし、新たな自殺方法も限定されてしまう。
そのうえ、ダイヤが狂ったり車体が破損したりした損害賠償は、すべて飛び込んだ本人か、その身内へ請求されるのだ。


