人生の楽しい終わらせ方


「飛び降りは、足が離れた瞬間が終わりじゃない。死んだ瞬間じゃなく」
「うん」
「だから、それまでに全部の演出を終わらせなきゃいけないのよ。大変だね」
「まあ、そうだね」
「ううん……私が死んでから、カナタが疑われないように演出してもらうのは、やっぱり難しいね」
「別に俺はいいんだけど。ちゃんと調べてもらえば疑いは晴れるようにすればいいんだし」
「私が嫌。死んだあとまで迷惑かけられないよ」


じゃあ死ぬ前に俺を振り回すのはいいのかよ。
以前は少ししか気にならなかったことが、今はやけにカナタを苛立たせた。

下の地面を覗き込む後ろ姿に近づく。
サエキが首だけで振り返った。


「? カナタ、」
「やっぱ飛び降りはだめ。汚い」
「……珍しいね、カナタがそういうこと言うの」
「だって、せっかく綺麗な色なのに」


彼女に向かって手を伸ばして、風で口許に運ばれた髪を避けた。
顎の輪郭を撫でて、髪に指をすき入れる。
耳を掠めて肩を竦めるのを見てから、もう片方の手を伸ばす。


「頭が潰れちゃったら勿体ないでしょ」


カナタが前触れもなく力を込めた手の下から、声にならない悲鳴があがった。