「開いた」
「うわ、すごい」
「すごいね」
「鍵は無事?」
「うん、全然」
埃だらけのままのノブを、ゆっくりと回した。
少しの抵抗のあと、思いの外呆気なく、海風が入ってくる。
わあ、と声を上げて足を踏み出したサエキを、数歩遅れて追いかけながら、カナタは口を開いた。
いつかの川原みたいに、風の音で掻き消されそうだ。
「ねえ、さっきの続きだけどさ」
「うん?」
「サエキさんは、人に見られながら死にたいわけでしょう」
「変態みたいな言い方やめてくんない? 違うからね」
「人に気付かれる死に方? 忘れられない死に方?」
「そうそう。それでいて、汚さのない」
サエキのそんな、カナタには理解しきれないこだわりのおかげで、彼女の死ぬ方法も死ぬ日も死ぬ場所も、まだ決定していない。
面倒だと思わなくもなかったが、カナタはどうしても、サエキにそのすべてを選ばせたかった。
サエキがどうやって、カナタのこの先あるかわからない一生の間、ずっと忘れられないような死に際を見せてくれるのか、興味があるのだ。
だからこそ、色々な方法を提示はするが、薦めたり推したりはしない。
選択はサエキに任せて、ただ待っていた。
だが、それは間違いだったと、最近になってようやく気づきはじめていた。


