「……サエキさん? いるの」
しんとした部屋に、カナタの小さい声だけが吸い込まれる。
悪いほうではない目を凝らす。
暗闇の中、月の灯りの届かない部屋の隅で、ほんのわずかに動くものを発見した。
少しずつ慣れてきた目が、色の白い人影を見つける。
物音は、サエキが立ち上がった時のものだったようだ。
小さく溜め息を吐いて、カナタは扉を閉めた。
後ろ手で鍵をかけながら言う。
「開けっぱなしにしちゃだめじゃん」
「……」
「てゆうか、呼んだら開けてよ。いないのかと思った」
「……」
「サエキさん?」
サエキの様子がおかしいことに、カナタははじめからなんとなく気付いていた。
そもそもが、あの電話からして妙だったのだ。
気まずくなっていたはずのカナタにわざわざ電話をかけて、あんないたずらみたいな着信履歴を残すなんて。
どうやら本当に気にかけてほしかったらしい。
ベッドの横に棒立ちになったサエキに、近づく。
「なに、なんか」
あったの、と言おうとした言葉は、サエキによって遮られた。
声を出したわけでもなく、口を塞いだわけでもなく、ただ、その場で膝を突いて倒れ込んだのだ。
どっ、という籠った音が、下の階に鳴り渡ったような気がした。


