17

「千空ちゃん、そこのコンビニに寄るんじゃなかったの」


その言葉で、暗くて顔の見えなかったその人が、瀬川なのだと気付く。

喉が詰まってしまったように、声が出ない。
声が出たところで、唇が震えてしまって、まともな言葉は話せなかっただろう。

肩を押さえ付ける手にぎり、と力が込められた。
痛い。寒い。
体が震える。


「なんで素通りしちゃったの? 本当は紅茶なんて買わないんでしょ?」


聞いたこともないような低い声だった。
なにをしてもへらへらしていて、曖昧で、さっぱりしない男が、こんなに苛立った声を出せるのかと驚いた。

怒っている。
ずっと後を付けられていたのだ。

今日だけだろうか、という、恐ろしい考えが頭を過った。
もし今までにも、尾行されたことがあったのだとしたら。
自宅の場所はおろか、瀬川に家を知られたくなくてわざと別の場所で別れていたことまで、ばれているかもしれない。

ひ、と喉が鳴った。


「そんな嘘吐いてまで、俺と一緒にいたくなかったの?」


ねえ、なんか言えよ、と瀬川が囁く。
サエキは必死で目を逸らそうとしていた。
もがいてももがいても、肩は解放されない。
力の差に、血の気が引く。


「馬鹿にしてんのかよ、人が下手に出てると思って」