瀬川を振り切る言い分けに使ったコンビニの看板が目に入って、サエキは顔を上げた。
そこの角を曲がってずっと真っ直ぐに行けば、防波堤に辿り着く。
ポケットの中で、ストラップにつけた鍵を探った。
行ってみようかなあ、と、頭の中で自問した時にはもう、心は半ば決まっていた。

足早にコンビニを通りすぎて、角を曲がる。
カナタはいないだろう。
そんな期待はしていないが、今はとにかく、あの空間が少し恋しい。
古い鍵が触れる感触を、飴玉を舐めるみたいに指先で転がした。
街頭はずっと先にしか見えないが、さっきは不安に感じた夜道も、今は気にならない。

なぜかすぐに行かなければいけないような、そんな予感がしていた。
今にも駆け出してしまいそうだ。



しかしそれは、叶わなかった。
唐突に腕が引かれる。
ポケットの中で触っていた携帯電話が飛び出して、地面でかしゃんと音を立てた。
強い力によろめくと、肩が壁にぶつかった。
両肩を掴まれて、背中を押し付けられる。
悲鳴は、思ったほど出なかった。