もう一本先の街灯の多い道を行こうと、サエキは焦っていた。
角を曲がってしまえば、コンビニの前からは姿が見えなくなる。
とにかく見つかる前に隠れたかった。
アルバイトを上がる時間は同時だったから、ほとんど猶予はないはずだ。
走り出しそうな気持ちを抑えて、目印の電柱を通り過ぎようとした時だった。
肩に手が置かれる。


「千空ちゃん!」


思わず悲鳴を上げそうになったのを飲み込んで、びくりと肩が跳ねたのを、振り返って誤魔化した。


「あ……瀬川さん」


いつも同じシフトに入っている、二、三歳年上の、だが年上とは思えないテンションの男だった。
この間カナタに相談したのも彼のことだが、問題はあれからも、悪化の一途を辿っていると言っていい。
連絡がしつこかったり、アルバイト中に暇を見つけては話しかけに来るくらいだったのが、最近ではなにかと物を買って寄越したり、帰りに待ち伏せたりするようになってきたのだ。

今日もなんとか見つかる前に逃げようと思っていたのだが、一足遅かった。
まるでそれが当然のことであるかのように、バイト帰りのサエキを捕まえては、言うのだ。


「今帰り? 送るよ」


はじめこそなんとか断っていたが、毎回毎回こうなので、いい加減口実も見つからなくなってきた。
それに「もう遅いから」「暗いから危ない」なんて言われてしまっては、好意を無下にするようで、断るこっちが悪いような気がしてしまう。


「あ……ありがとうございます」


曖昧な笑顔を浮かべる瀬川に、サエキも曖昧に笑った。
頬がひきつっていないか、一応気にしてみる。
告白されたのを断ったという時点で、すでになんとなく後ろめたさのようなものがあって、接し方に困るのだ。