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もう半月が過ぎたのだと、サエキが気付いたのは、アルバイトが終わって、携帯電話の画面を見た時だった。

カナタに会っていない。
会っていないどころか、連絡も取っていない。
あの廃ホテルにもあれから行っていない。

携帯電話にレトロなストラップのようにぶら下げている鍵の感触を、指先で確かめる。
錆でざらりとしている部分もあるが、最近まで何年もの間開けられることのなかった鍵だ、今さら数週間放っておいたところで、錆び付いて開かなくなっているなんてことはないだろう。

それでも、不安だった。
もうすぐ冬が来る。
前にカナタと話していたように、雪に足跡のくっきり残る季節になれば、廃墟であるはずのあのホテルには行きづらくなってしまう。

サエキがカナタと繋がる目的はサエキの自殺だけであり、繋がる手段はあの廃ホテルしかない。
もともと脆かった付き合いは、サエキの自殺計画が現実的なものとなるうち、物理的な距離が縮まることで、余計に壊れやすいものになっていた。


ポケットに手ごと携帯電話を突っ込んで、コンビニを出る。
できるだけ急いで帰ってしまいたくて、足を速めた。
背後から足音は聞こえない。

いつかカナタが腰かけて待っていたガードレールを通りすぎる。
すぐの角を曲がれば、手を繋ぎたいとねだったあの暗い道だが、そこは一人で通るには少し心許ない。
車のライトに照らされた、カナタの横顔を思い出す。
あの日はなんだかずっと逆光に翳った顔ばかり見ていたような気がするが、一番はっきり覚えているのは、至近距離で見た睫毛の長さだった。