「だいたいさぁ、その、先輩? 本気で嫌ならもっと断り方あったんじゃないの」
「私はちゃんと断ったって言ってるじゃん」
「どこがちゃんとだよ、生理的に無理とか彼氏いるとか色々あんだろ」
「待ってよ、なんでカナタにそんなことで怒られなきゃいけないわけ?」
「じゃあなんでわざわざ俺に言ったの」
「わ、私が言いたかったのはしつこくて困ってるってことで」
「だからそれだよ。俺に関係ねーじゃん」


そう言った瞬間、サエキの瞳が、左右に揺れた。
目が泳いだ、というにはあまりにもわずかな動きで、それが彼女の動揺なのだと、一瞬気付かなかったくらいだ。
動揺したのだ。
ショックを受けた。
傷付いた、というのが一番正しい。

しかし、言ってしまってからカナタを襲った後悔は、サエキを傷付けたことよりも、自分の行動を省みてのことだった。
こんなこと言って、子供みたいだ。
どこまでも自分のことで精一杯で、どこまでもサエキの表面しか目に入らない。


「関係、ないの」


カナタも、動揺を顔に浮かべた。
サエキとじいっと合った目線がぶれそうになるのを、なんとか抑える。

「関係ない」なんて明らかに、カナタが言っていい言葉ではなった。
サエキの目は、信じられない、と言っていた。
あんなことしておいて?

思わず口を開いて、「ごめん」と言ってしまいそうになる。
だが、声は出せなかった。
謝るくらいなら言わなければいいだろ、と、我ながら思ってしまった。

サエキが目をそらす。
伏せられた瞼が青白い。
カナタの腕に触れていた手が、力なく落ちた。
カナタも同じように目を伏せてみたが、五分も耐えられず、立ち上がった。