beautiful love ★ 俺様boyと天然girl

水乃Side

それからも。

木南さんが早手のところに来ることは、減らなかった。

むしろ。

前より増えている気がする。

休み時間になれば教室の入口から早手を呼んで。

廊下ですれ違えば、嬉しそうに近づいて。

放課後になれば。

早手が教室を出るのを待っていることもあった。

「…………」

気にしない。

そう思ってるのに。

木南さんの声が聞こえるたび、身体が勝手に反応する。

早手の名前を呼ぶ声。

それだけで胸の中がざわついて、今までしていたことに集中できなくなる。

今日も。

部活が終わって。

優希と一緒にボールを片づけながら、何気なく体育館の入口へ目を向けた。

「…………」

いた。

木南さん。

体育館の外。

壁にもたれるようにして、スマホを見ている。

「…………」

また。

その言葉が真っ先に浮かんだ。

誰を待っているのかなんて。

聞かなくても分かる。

「水乃、それこっちでいい?」

「あ……うん」

優希に声をかけられて、慌てて手元へ視線を戻す。

「そこ入れといて」

「了解」

「…………」

気にしない。

気にしない。

そう思いながらボールを片づける。

でも。

気づけば。

また入口を見ていた。

木南さんはまだいる。

スマホを見たり。

体育館の中を覗いたり。

時々。

髪を直したり。

「…………」

胸の中が。

なんだか落ち着かない。

待ってるだけ。

ただ。

早手を待ってるだけなのに。

何で。

こんなに気になるんだろう。

「お疲れー」

男子の声がして。

練習を終えたみんなが、少しずつ体育館を出ていく。

慎も。

真澄も。

早手も。

「…………」

見ないようにしようと思った。

でも。

無理だった。

早手が体育館から出た瞬間。

木南さんが顔を上げた。

ぱっと。

本当に分かりやすいくらい。

嬉しそうな顔になった。

「早手!」

「…………」

早手が足を止める。

「……何してんの?」

「待ってた」

「また?」

「うん」

木南さんは笑ってる。

早手は。

少しだけ眉を寄せた。

「……待たなくていいって」

「いいじゃん。私が勝手に待ってるだけだし」

「…………」

「もう終わった?」

「終わったけど」

「じゃあ一緒に帰ろ」

「…………」

胸が。

ざわっとした。

早手はすぐには答えなかった。

タオルで首元を拭きながら。

少し面倒そうに木南さんを見てる。

前だったら。

きっと。

断ってた。

『無理』とか。

『先帰れば』とか。

木南さんが何を言っても。

それ以上近づかせないようにしてた。

でも。

今の早手は。

「……俺、着替えてからだけど」

それだけ。

「うん。待ってる」

「いや、だから待たなくていいって」

「待ちたいの」

「…………」

木南さんが笑う。

早手は。

それ以上、何も言わなかった。

「…………」

胸の奥が。

また騒がしくなる。

何で。

断らないの。

そんな言葉が浮かんで。

すぐに。

自分で打ち消した。

違う。

断れないんだ。

早手は。

木南さんのことを知ってるから。

何があったのか。

どんな思いをしてきたのか。

知ってるから。

前みたいに。

簡単には突き放せないだけ。

分かってる。

ちゃんと。

分かってるのに。

「…………」

嫌だった。

木南さんが。

早手を待ってるのが。

早手の名前を嬉しそうに呼ぶのが。

早手の隣にいるのが。

全部。

見たくなかった。

「…………っ」

そんなふうに思った自分に。

今度は胸が苦しくなる。

何で。

私が嫌だなんて思うの。

私。

慎とデートしたじゃん。

慎と手繋いで。

慎に告白されて。

もっと慎のことを知りたいって。

そう思ったじゃん。

それなのに。

早手の隣に木南さんがいるのは嫌って。

そんなの。

勝手すぎる。

「水乃?」

「……え?」

優希が私を見ていた。

「終わったよ?」

「あ……」

気づけば。

片づけは全部終わっていた。

「ごめん。ぼーっとしてた」

「大丈夫?」

「うん」

「疲れた?」

「……ちょっとだけ」

笑って誤魔化す。

鞄を持って。

優希と体育館を出た。

「…………」

木南さんは。

まだ外にいた。

私たちが通ると。

「あ、水乃ちゃん」

「……木南さん」

「お疲れさま」

「うん。木南さんも……」

言いかけて。

何がお疲れさまなんだろうと思って、言葉が止まる。

木南さんは気にした様子もなく笑った。

「早手待ってるの」

「…………」

聞いてないのに。

教えてくれた。

「……そっか」

「うん」

嬉しそう。

その顔を見て。

また胸の中がざわつく。

「最近ね」

木南さんが少しだけ笑みを深くする。

「前より話してくれるようになったんだ」

「…………」

心臓が。

大きく鳴った。

「……そうなんだ」

「うん」

「…………」

「前はすぐ『無理』とか『知らねぇ』とか言われてたけど」

木南さんが笑う。

「最近はちゃんと話聞いてくれるし」

「…………」

「ちょっと優しくなった」

優しく。

なった。

「…………」

その言葉が。

胸の奥に引っかかった。

理由は。

分かってる。

早手が木南さんに優しくする理由。

木南さんの家庭のことを知って。

あんなことがあって。

だから。

もう。

簡単に突き放せなくなった。

それだけ。

分かってる。

分かってるのに。

「……よかったね」

口から出た声が。

自分でも驚くくらい。

ちゃんとしてた。

木南さんが笑う。

「うん」

「…………」

「水乃ちゃんが、いいって言ってくれたから」

「……え?」

「早手のこと頼っていいって」

胸が。

また。

大きく鳴る。

「だから私も、前みたいに遠慮するのやめようかなって」

「…………」

「だって」

木南さんは。

少し照れたみたいに笑った。

「私、まだ早手のこと好きだし」

「…………」

知ってる。

それは。

知ってる。

直接。

聞いたから。

「もっと私のこと見てほしいし」

木南さんの視線が。

体育館の方へ向く。

「早手の近くにいたい」

「…………」

胸の中が。

一気に騒がしくなった。

何か言わなきゃ。

そう思うのに。

言葉が出てこない。

私が。

いいって言った。

木南さんが早手を頼っても。

早手のそばにいても。

いいって。

だから。

今さら。

何も言えない。

「……そっか」

やっと。

それだけ言った。

「うん」

木南さんは。

嬉しそうに笑った。

その時。

体育館の扉が開いた。

着替えを終えた早手が出てくる。

「早手!」

木南さんが。

すぐに早手の方へ行く。

「…………」

早手が。

一瞬。

こっちを見た。

目が合いそうになって。

私は。

反射的に逸らした。

「…………っ」

見れない。

今は。

余計に。

見れなかった。

「行こ、早手」

「……分かったから引っ張んな」

「早く」

「はいはい」

2人の声が。

少しずつ遠ざかっていく。

「…………」

胸が。

苦しい。

騒がしい。

落ち着かない。

嫉妬してる。

たぶん。

そうなんだと思う。

木南さんが。

早手の隣にいることに。

私は。

嫉妬してる。

「…………」

でも。

そんなこと。

思っていいはずない。

だって。

私が。

木南さんに言ったんだから。

早手のそばにいていいって。

それに。

私は。

慎のことを。

ちゃんと見ようとしてる。

慎といる時間が楽しくて。

慎にドキドキして。

もっと知りたいと思ってる。

なのに。

「…………」

早手。

その名前を。

心の中で呼んだだけで。

また。

胸が締めつけられた。

自分の気持ちが。

分からない。

何をしたいのかも。

誰の隣にいたいのかも。

分からない。

ただ。

木南さんと並んで歩いていく早手の背中だけが。

いつまでも。

頭から離れてくれなかった。