水乃Side
それから数日。
私は、早手とまともに話せないままでいた。
避けようって決めたわけじゃない。
同じ教室にいれば声だって聞こえるし、部活に行けば姿だって目に入る。
それでも。
早手が近くにいるだけで、胸の奥が落ち着かなくなる。
目が合いそうになれば逸らして。
声が聞こえれば、聞いてないふりをして。
自分でも不自然だって分かってる。
それでも。
どうしても早手の顔を、真っ直ぐ見ることができなかった。
あんなに。
何度も気持ちを伝えてくれたから。
好きだって。
諦めないって。
私に振り向いてもらうって。
それなのに私は慎とデートして、手を繋いで。
慎にドキドキして。
もっと一緒にいたいって思って。
告白されても。
断れなかった。
もちろん。
私と早手は、もう付き合ってない。
誰と出かけても。
早手に責められることじゃない。
分かってるのに。
「…………」
今日も。
少し離れたところから早手の笑い声が聞こえただけで、胸がきゅっと縮んだ。
顔を上げることもできない。
だから。
机の上のノートを見ながら、聞こえないふりをした。
そんな私とは反対に。
早手はいつも通りだった。
クラスの男子と話して。
真澄たちとふざけて。
授業が始まれば面倒そうに席について。
私を避けているようにも見えないし、わざわざ近づいてくることもない。
慎が私の近くにいる時だって。
早手は。
何も言わなかった。
「水乃」
「……ん?」
「これ」
慎が机の横から、私のノートを差し出してきた。
「あ、ありがと」
「昨日忘れてただろ」
「うん」
それだけ。
慎は少し笑って、自分の席へ戻っていった。
「…………」
前より慎と話すことは増えた。
目が合えば、デートのことを思い出す。
慎が近くにいることを嬉しいと思う自分もいる。
それなのに。
早手が同じ教室にいるだけで。
胸の中には別の感情が溢れてくる。
罪悪感なのか。
まだ残っている気持ちなのか。
自分でも分からなかった。
ただ。
落ち着かなかった。
ずっと。
胸の中が騒がしかった。
そんな日が。
何日か続いた。
その間に。
もうひとつ。
気になることが増えた。
「早手」
「…………」
休み時間。
教室の入口から聞こえた声に、反射的に顔を上げた。
木南さん。
最近。
よく見る。
前から早手のところへ来ることはあった。
でも。
最近は。
明らかに回数が増えていた。
「早手、ちょっといい?」
「……何?」
早手が振り返る。
「少し話したい」
「ここじゃダメなの?」
「ちょっとだけ」
「…………」
早手は面倒そうな顔をした。
でも。
断らなかった。
「……分かった」
立ち上がって。
木南さんと教室を出ていく。
「…………」
胸の中が。
ざわっとした。
何を話すんだろう。
どこに行くんだろう。
そんなこと。
私には関係ないのに。
気になる。
「…………」
違う。
気にしちゃダメ。
だって。
木南さんに言ったのは。
私なんだから。
早手を頼っていいって。
これからも。
早手のそばにいたいなら、いていいって。
そう言った。
自分で。
「…………」
なのに。
どうして。
こんなに。
胸がざわざわするんだろう。
***
放課後。
部活へ向かうために廊下を歩いていた。
少し前には慎と真澄がいて、その後ろを早手が歩いている。
私は優希と一緒に、その少し後ろを歩いていた。
いつもなら。
もっと普通に。
みんなで話しながら体育館まで行ってた。
でも今は。
早手との間に。
自分から距離を作ってる。
「…………」
早手の背中を見ているだけで。
また胸が苦しくなって。
視線を逸らした。
その時。
廊下の先に。
人影が見えた。
壁際に立って。
誰かを待っている。
木南さんだった。
「…………」
嫌な予感がした。
そんなふうに思った自分が嫌だった。
木南さんは。
何も悪くない。
なのに。
早手たちが近づいた瞬間。
木南さんの表情が。
ぱっと明るくなった。
「早手!」
「…………」
早手も気づく。
「……何してんの?」
「待ってた」
「誰を?」
「早手」
迷いなく答える木南さん。
胸が。
また。
ざわっとした。
「……何で」
「一緒に行こうと思って」
「俺、部活だけど」
「知ってるよ。体育館のところまで」
「…………」
前なら。
早手は。
もっと冷たかった。
木南さんがどれだけ話しかけても、面倒そうにして。
時には。
はっきり突き放していた。
でも。
今は。
「……好きにすれば」
それだけだった。
追い返さなかった。
木南さんは嬉しそうに笑って、早手の隣へ並んだ。
「…………」
胸が。
また騒がしくなる。
嫌だ。
そう思ったのか。
寂しいと思ったのか。
嫉妬したのか。
分からない。
分からないけど。
木南さんが早手の隣にいるのを見ていると。
胸の中がぐちゃぐちゃになった。
早手のことを見られなくて。
慎と出かけたことには罪悪感があって。
それなのに。
木南さんが早手に近づけば。
こんなにも気になる。
「…………」
何なの。
私。
自分から。
早手を木南さんのところへ行かせたくせに。
自分は慎と出かけたくせに。
今さら。
早手の隣に木南さんがいることが嫌だなんて。
そんなの。
勝手すぎる。
「水乃?」
隣を歩いていた優希が、私の顔を覗き込んだ。
「……何?」
「いや。なんか静かだから」
「……大丈夫」
そう答えて。
前を見る。
木南さんが。
早手に何か話している。
早手は前を向いたまま。
時々。
短く返事をしていた。
「…………」
見たくない。
なのに。
目が離せない。
気にしちゃダメだと思えば思うほど。
気になって。
胸の中が。
どんどん騒がしくなる。
これでいい。
木南さんには。
早手が必要なんだから。
私が。
そう決めたんだから。
「…………」
何度そう言い聞かせても。
胸のざわつきは。
少しも。
消えてくれなかった。
それから数日。
私は、早手とまともに話せないままでいた。
避けようって決めたわけじゃない。
同じ教室にいれば声だって聞こえるし、部活に行けば姿だって目に入る。
それでも。
早手が近くにいるだけで、胸の奥が落ち着かなくなる。
目が合いそうになれば逸らして。
声が聞こえれば、聞いてないふりをして。
自分でも不自然だって分かってる。
それでも。
どうしても早手の顔を、真っ直ぐ見ることができなかった。
あんなに。
何度も気持ちを伝えてくれたから。
好きだって。
諦めないって。
私に振り向いてもらうって。
それなのに私は慎とデートして、手を繋いで。
慎にドキドキして。
もっと一緒にいたいって思って。
告白されても。
断れなかった。
もちろん。
私と早手は、もう付き合ってない。
誰と出かけても。
早手に責められることじゃない。
分かってるのに。
「…………」
今日も。
少し離れたところから早手の笑い声が聞こえただけで、胸がきゅっと縮んだ。
顔を上げることもできない。
だから。
机の上のノートを見ながら、聞こえないふりをした。
そんな私とは反対に。
早手はいつも通りだった。
クラスの男子と話して。
真澄たちとふざけて。
授業が始まれば面倒そうに席について。
私を避けているようにも見えないし、わざわざ近づいてくることもない。
慎が私の近くにいる時だって。
早手は。
何も言わなかった。
「水乃」
「……ん?」
「これ」
慎が机の横から、私のノートを差し出してきた。
「あ、ありがと」
「昨日忘れてただろ」
「うん」
それだけ。
慎は少し笑って、自分の席へ戻っていった。
「…………」
前より慎と話すことは増えた。
目が合えば、デートのことを思い出す。
慎が近くにいることを嬉しいと思う自分もいる。
それなのに。
早手が同じ教室にいるだけで。
胸の中には別の感情が溢れてくる。
罪悪感なのか。
まだ残っている気持ちなのか。
自分でも分からなかった。
ただ。
落ち着かなかった。
ずっと。
胸の中が騒がしかった。
そんな日が。
何日か続いた。
その間に。
もうひとつ。
気になることが増えた。
「早手」
「…………」
休み時間。
教室の入口から聞こえた声に、反射的に顔を上げた。
木南さん。
最近。
よく見る。
前から早手のところへ来ることはあった。
でも。
最近は。
明らかに回数が増えていた。
「早手、ちょっといい?」
「……何?」
早手が振り返る。
「少し話したい」
「ここじゃダメなの?」
「ちょっとだけ」
「…………」
早手は面倒そうな顔をした。
でも。
断らなかった。
「……分かった」
立ち上がって。
木南さんと教室を出ていく。
「…………」
胸の中が。
ざわっとした。
何を話すんだろう。
どこに行くんだろう。
そんなこと。
私には関係ないのに。
気になる。
「…………」
違う。
気にしちゃダメ。
だって。
木南さんに言ったのは。
私なんだから。
早手を頼っていいって。
これからも。
早手のそばにいたいなら、いていいって。
そう言った。
自分で。
「…………」
なのに。
どうして。
こんなに。
胸がざわざわするんだろう。
***
放課後。
部活へ向かうために廊下を歩いていた。
少し前には慎と真澄がいて、その後ろを早手が歩いている。
私は優希と一緒に、その少し後ろを歩いていた。
いつもなら。
もっと普通に。
みんなで話しながら体育館まで行ってた。
でも今は。
早手との間に。
自分から距離を作ってる。
「…………」
早手の背中を見ているだけで。
また胸が苦しくなって。
視線を逸らした。
その時。
廊下の先に。
人影が見えた。
壁際に立って。
誰かを待っている。
木南さんだった。
「…………」
嫌な予感がした。
そんなふうに思った自分が嫌だった。
木南さんは。
何も悪くない。
なのに。
早手たちが近づいた瞬間。
木南さんの表情が。
ぱっと明るくなった。
「早手!」
「…………」
早手も気づく。
「……何してんの?」
「待ってた」
「誰を?」
「早手」
迷いなく答える木南さん。
胸が。
また。
ざわっとした。
「……何で」
「一緒に行こうと思って」
「俺、部活だけど」
「知ってるよ。体育館のところまで」
「…………」
前なら。
早手は。
もっと冷たかった。
木南さんがどれだけ話しかけても、面倒そうにして。
時には。
はっきり突き放していた。
でも。
今は。
「……好きにすれば」
それだけだった。
追い返さなかった。
木南さんは嬉しそうに笑って、早手の隣へ並んだ。
「…………」
胸が。
また騒がしくなる。
嫌だ。
そう思ったのか。
寂しいと思ったのか。
嫉妬したのか。
分からない。
分からないけど。
木南さんが早手の隣にいるのを見ていると。
胸の中がぐちゃぐちゃになった。
早手のことを見られなくて。
慎と出かけたことには罪悪感があって。
それなのに。
木南さんが早手に近づけば。
こんなにも気になる。
「…………」
何なの。
私。
自分から。
早手を木南さんのところへ行かせたくせに。
自分は慎と出かけたくせに。
今さら。
早手の隣に木南さんがいることが嫌だなんて。
そんなの。
勝手すぎる。
「水乃?」
隣を歩いていた優希が、私の顔を覗き込んだ。
「……何?」
「いや。なんか静かだから」
「……大丈夫」
そう答えて。
前を見る。
木南さんが。
早手に何か話している。
早手は前を向いたまま。
時々。
短く返事をしていた。
「…………」
見たくない。
なのに。
目が離せない。
気にしちゃダメだと思えば思うほど。
気になって。
胸の中が。
どんどん騒がしくなる。
これでいい。
木南さんには。
早手が必要なんだから。
私が。
そう決めたんだから。
「…………」
何度そう言い聞かせても。
胸のざわつきは。
少しも。
消えてくれなかった。
