水乃Side
連休当日。
待ち合わせ場所に着いたのは、約束していた時間より少しだけ早かった。
駅の改札近くで立ち止まって、スマホの画面を確認する。
まだ慎から連絡は来ていない。
「…………」
なんだろう。
すごく、緊張する。
慎と2人で出かけることなんて、今までだってなかったわけじゃない。
学校でも毎日のように会うし、部活でも一緒。
帰り道だって何度も一緒になったことがある。
それなのに。
今日は最初から“デート”って分かってるからなのか。
いつもとは全然違う。
鏡の前で何度も服を着替えたことも。
家を出る前に髪を直したことも。
慎には絶対言えない。
「…………」
ふと。
頭に触れる。
昨日。
早手に撫でられた場所。
『……手当て、ありがとうな』
怒られると思ってた。
あんなこと言ったんだから。
『早手とのこと、忘れたい……』
思い出すだけで、胸が痛くなる。
忘れたいなんて。
本当は――。
「水乃!」
「……っ!」
急に名前を呼ばれて、顔を上げる。
「おはよ」
こっちに向かって歩いてくる慎。
「……お、おはよう」
制服じゃない。
当たり前なんだけど。
いつも学校で見てる慎とは雰囲気が違って、一瞬だけ目が止まった。
「何?」
「え?」
「今、めっちゃ見てたじゃん」
「見てないよ!」
「見てただろ」
「見てない!」
「はいはい」
笑いながら私の前まで来た慎が、今度はじっと私を見る。
「…………」
「な、何?」
「いや」
慎の視線が上から下まで動く。
それだけなのに、急に落ち着かなくなる。
「……今日、かわいいじゃん」
「……え」
思ってもいなかった言葉に、固まった。
慎はそんな私を見て、少しだけ笑う。
「何その顔」
「だって……急に言うから」
「思ったから言っただけ」
「…………」
「似合ってる」
「……ありがと」
恥ずかしくなって、視線を逸らした。
慎の前でこんなに緊張するなんて。
少し前までなら、考えられなかったのに。
「じゃ、行こーぜ」
「うん」
慎と並んで改札を通る。
電車に乗って、空いていた2人掛けの席に並んで座った。
目的地までは約1時間。
隣の県にある水族館。
『どっか遠いところ』
そう言ったのは私だった。
まさか本当に隣の県まで行くことになるとは思ってなかったけど。
「楽しみだな」
慎がスマホで水族館のページを見ながら言う。
「慎、水族館好きなの?」
「普通に好き」
「意外」
「何でだよ」
「だって慎、魚見てじっとしてられなさそう」
「どういう意味?」
「そのままの意味」
「ひどくね?」
「ふふっ」
思わず笑う。
「……あ」
慎がこっちを見る。
「何?」
「やっと笑った」
「え?」
「さっきからちょっと顔固かったから」
「…………」
気づかれてた。
「緊張してんの?」
「……慎はしてないの?」
そう聞き返すと。
慎が一瞬、黙った。
「してるけど?」
「え?」
「そりゃするだろ」
何でもないことみたいに言いながら、窓の外へ視線を向ける。
「好きなやつとデートしてんだから」
「…………っ」
心臓が跳ねた。
「そういうの……普通に言わないでよ」
「何で?」
「恥ずかしいから」
「俺も結構恥ずかしいんだけど」
「全然そう見えない」
「隠してんの」
「……嘘」
「ほんと」
慎が笑う。
私もつられて笑った。
そこからは、いつもみたいだった。
学校の話をして。
部活の話をして。
真澄の話になって、2人で笑って。
途中で慎が買っていたお菓子を勝手に取ったら、「それ俺の」と文句を言われて。
「1個くらいいいじゃん」
「じゃあ水乃のもよこせ」
「やだ」
「ずるっ」
そんなくだらないやり取りをしてるうちに。
さっきまであんなに緊張していたことも忘れていた。
「次じゃね?」
慎が窓の外を見ながら言う。
「ほんとだ」
もう着くんだ。
1時間って、もっと長いと思ってた。
電車を降りて、慎と並んで駅を出る。
初めて来る場所。
いつもの学校も。
いつもの駅も。
部活も。
ここには何もない。
「水乃」
少し先を歩いていた慎が振り返る。
「早く」
「待ってよ」
「置いてくぞー」
「ひどい!」
笑いながら慎のところまで小走りで追いかける。
そんな私を見て、慎も笑っていた。
「ほら、あれじゃね?」
慎が指差した先。
少し離れたところに、水族館の建物が見える。
「……ほんとだ」
なんだか急に。
楽しみになった。
「行こ、水乃」
「うん!」
慎の隣に並ぶ。
その時の私は。
昨日、早手に言った言葉も。
頭を撫でてくれた手の温かさも。
少しだけ。
頭の隅へ追いやることができていた。
連休当日。
待ち合わせ場所に着いたのは、約束していた時間より少しだけ早かった。
駅の改札近くで立ち止まって、スマホの画面を確認する。
まだ慎から連絡は来ていない。
「…………」
なんだろう。
すごく、緊張する。
慎と2人で出かけることなんて、今までだってなかったわけじゃない。
学校でも毎日のように会うし、部活でも一緒。
帰り道だって何度も一緒になったことがある。
それなのに。
今日は最初から“デート”って分かってるからなのか。
いつもとは全然違う。
鏡の前で何度も服を着替えたことも。
家を出る前に髪を直したことも。
慎には絶対言えない。
「…………」
ふと。
頭に触れる。
昨日。
早手に撫でられた場所。
『……手当て、ありがとうな』
怒られると思ってた。
あんなこと言ったんだから。
『早手とのこと、忘れたい……』
思い出すだけで、胸が痛くなる。
忘れたいなんて。
本当は――。
「水乃!」
「……っ!」
急に名前を呼ばれて、顔を上げる。
「おはよ」
こっちに向かって歩いてくる慎。
「……お、おはよう」
制服じゃない。
当たり前なんだけど。
いつも学校で見てる慎とは雰囲気が違って、一瞬だけ目が止まった。
「何?」
「え?」
「今、めっちゃ見てたじゃん」
「見てないよ!」
「見てただろ」
「見てない!」
「はいはい」
笑いながら私の前まで来た慎が、今度はじっと私を見る。
「…………」
「な、何?」
「いや」
慎の視線が上から下まで動く。
それだけなのに、急に落ち着かなくなる。
「……今日、かわいいじゃん」
「……え」
思ってもいなかった言葉に、固まった。
慎はそんな私を見て、少しだけ笑う。
「何その顔」
「だって……急に言うから」
「思ったから言っただけ」
「…………」
「似合ってる」
「……ありがと」
恥ずかしくなって、視線を逸らした。
慎の前でこんなに緊張するなんて。
少し前までなら、考えられなかったのに。
「じゃ、行こーぜ」
「うん」
慎と並んで改札を通る。
電車に乗って、空いていた2人掛けの席に並んで座った。
目的地までは約1時間。
隣の県にある水族館。
『どっか遠いところ』
そう言ったのは私だった。
まさか本当に隣の県まで行くことになるとは思ってなかったけど。
「楽しみだな」
慎がスマホで水族館のページを見ながら言う。
「慎、水族館好きなの?」
「普通に好き」
「意外」
「何でだよ」
「だって慎、魚見てじっとしてられなさそう」
「どういう意味?」
「そのままの意味」
「ひどくね?」
「ふふっ」
思わず笑う。
「……あ」
慎がこっちを見る。
「何?」
「やっと笑った」
「え?」
「さっきからちょっと顔固かったから」
「…………」
気づかれてた。
「緊張してんの?」
「……慎はしてないの?」
そう聞き返すと。
慎が一瞬、黙った。
「してるけど?」
「え?」
「そりゃするだろ」
何でもないことみたいに言いながら、窓の外へ視線を向ける。
「好きなやつとデートしてんだから」
「…………っ」
心臓が跳ねた。
「そういうの……普通に言わないでよ」
「何で?」
「恥ずかしいから」
「俺も結構恥ずかしいんだけど」
「全然そう見えない」
「隠してんの」
「……嘘」
「ほんと」
慎が笑う。
私もつられて笑った。
そこからは、いつもみたいだった。
学校の話をして。
部活の話をして。
真澄の話になって、2人で笑って。
途中で慎が買っていたお菓子を勝手に取ったら、「それ俺の」と文句を言われて。
「1個くらいいいじゃん」
「じゃあ水乃のもよこせ」
「やだ」
「ずるっ」
そんなくだらないやり取りをしてるうちに。
さっきまであんなに緊張していたことも忘れていた。
「次じゃね?」
慎が窓の外を見ながら言う。
「ほんとだ」
もう着くんだ。
1時間って、もっと長いと思ってた。
電車を降りて、慎と並んで駅を出る。
初めて来る場所。
いつもの学校も。
いつもの駅も。
部活も。
ここには何もない。
「水乃」
少し先を歩いていた慎が振り返る。
「早く」
「待ってよ」
「置いてくぞー」
「ひどい!」
笑いながら慎のところまで小走りで追いかける。
そんな私を見て、慎も笑っていた。
「ほら、あれじゃね?」
慎が指差した先。
少し離れたところに、水族館の建物が見える。
「……ほんとだ」
なんだか急に。
楽しみになった。
「行こ、水乃」
「うん!」
慎の隣に並ぶ。
その時の私は。
昨日、早手に言った言葉も。
頭を撫でてくれた手の温かさも。
少しだけ。
頭の隅へ追いやることができていた。
