早手Side
「それでもまだ、木南のことで俺から離れてんの?」
「…………」
水乃はすぐには答えなかった。
俺の手首に触れていた手を止めたまま、俯いている。
「……違うよ」
やっと返ってきた声は、小さかった。
「じゃあ何?」
「…………」
「何で最近、俺から離れんの?」
「別に、離れてるわけじゃ……」
「離れてんじゃん」
思わず言葉を被せる。
「前より全然話さなくなったし、俺が近くに行ったら何か理由つけてどっか行くし」
「…………」
「それで慎とは普通に一緒にいるんだろ?」
水乃の顔が少しだけ上がった。
何か言おうとして。
でも、結局何も言わない。
「木南のことじゃないなら、何?」
「…………」
「俺と一緒にいるのが嫌なわけでもないんだろ?」
「……うん」
「じゃあ何でだよ」
また黙る。
でも。
さっきから水乃は、答えられないっていうより。
何かを言わないようにしてる。
そんな感じがした。
「……俺、何かした?」
「してないよ」
今度はすぐに返ってくる。
「じゃあ何?」
「…………」
「水乃」
「……早手は、何もしてない」
「だったら余計分かんねぇよ」
俺が何かしたわけでもない。
一緒にいるのが嫌なわけでもない。
木南のことを疑ってるわけでもない。
だったら。
何で俺から離れんの。
「……早手だって」
水乃が小さく呟いた。
「何?」
「…………」
「俺が何?」
「……何でもない」
「またそれ?」
「…………」
「さっきから何隠してんの?」
「隠してないよ」
「嘘つけ」
水乃の目が揺れる。
分かる。
10年一緒にいるんだから。
こいつが何か言いたいのに飲み込んでる時くらい。
「……木南?」
水乃の肩が僅かに揺れた。
やっぱり。
「なんで今、木南のことが出てくるの?」
「…………」
「俺、お前に話したよな……?」
「……うん」
「言えなかった理由も」
「分かってるよ」
「木南のこと好きなわけじゃないってことも」
「……分かってる」
だったら。
本当に意味が分からない。
「じゃあ何?」
「…………」
「分かってんなら、何でまだ木南のことで俺から離れんの?」
「違うの」
「何が」
「早手が木南さんを好きとか、そういうことじゃなくて……」
「じゃあ何なんだよ」
水乃が言葉を止める。
俯いたまま、膝の上で指を握っている。
「……木南さんは」
「うん」
「…………」
続きは出てこなかった。
「木南が何?」
「……何でもない」
「水乃」
「ごめん」
また、それ。
俺には言わない。
でも。
今の一言だけで十分だった。
木南は――。
その続きに、水乃が俺から離れようとしてる理由がある。
なのに、それを俺には言おうとしない。
「……明後日」
水乃がゆっくり顔を上げる。
「慎とは行くんだ?」
「……うん」
「俺が行ってほしくないって言っても?」
少しだけ間があった。
「……行く」
「…………」
それ以上、行くなとは言わなかった。
言ったって、水乃は行く。
それより。
聞きたいことは別にあった。
「……何で慎なの?」
「え……?」
「俺から離れて、何で慎の方行くの?」
「慎の方に行くとか、そういうんじゃ……」
「じゃあ何」
「…………」
水乃はまた俯いた。
「私も……このままじゃダメだから」
「何が?」
「ちゃんと、前に進まなきゃって思ってる」
「…………」
前に進む。
その言葉を聞いた瞬間。
胸の奥が冷たくなる。
「……それって」
声が上手く出なかった。
「俺のこと、忘れようとしてんの?」
「…………」
水乃は答えない。
「水乃」
「……慎は」
俺の問いには答えないまま、水乃が続ける。
「ずっと待ってくれてるから」
「…………」
「ちゃんと気持ちも伝えてくれて……それなのに私、ずっと曖昧なままで」
水乃の指が、ぎゅっと重なる。
「だから……ちゃんと向き合わなきゃって思ってる」
「慎と?」
「……うん」
水乃が頷く。
でも。
その顔は、これから好きな男とデートに行くやつの顔には見えなかった。
嬉しそうでも。
楽しそうでもない。
むしろ、苦しそうで。
何かを必死に諦めようとしてるみたいで。
「……水乃」
「…………」
「お前、本当に慎のこと見ようとしてんの?」
水乃が俺を見る。
「それとも」
言いながら。
嫌な予感がした。
「……俺のこと見ないようにしてるだけ?」
「それでもまだ、木南のことで俺から離れてんの?」
「…………」
水乃はすぐには答えなかった。
俺の手首に触れていた手を止めたまま、俯いている。
「……違うよ」
やっと返ってきた声は、小さかった。
「じゃあ何?」
「…………」
「何で最近、俺から離れんの?」
「別に、離れてるわけじゃ……」
「離れてんじゃん」
思わず言葉を被せる。
「前より全然話さなくなったし、俺が近くに行ったら何か理由つけてどっか行くし」
「…………」
「それで慎とは普通に一緒にいるんだろ?」
水乃の顔が少しだけ上がった。
何か言おうとして。
でも、結局何も言わない。
「木南のことじゃないなら、何?」
「…………」
「俺と一緒にいるのが嫌なわけでもないんだろ?」
「……うん」
「じゃあ何でだよ」
また黙る。
でも。
さっきから水乃は、答えられないっていうより。
何かを言わないようにしてる。
そんな感じがした。
「……俺、何かした?」
「してないよ」
今度はすぐに返ってくる。
「じゃあ何?」
「…………」
「水乃」
「……早手は、何もしてない」
「だったら余計分かんねぇよ」
俺が何かしたわけでもない。
一緒にいるのが嫌なわけでもない。
木南のことを疑ってるわけでもない。
だったら。
何で俺から離れんの。
「……早手だって」
水乃が小さく呟いた。
「何?」
「…………」
「俺が何?」
「……何でもない」
「またそれ?」
「…………」
「さっきから何隠してんの?」
「隠してないよ」
「嘘つけ」
水乃の目が揺れる。
分かる。
10年一緒にいるんだから。
こいつが何か言いたいのに飲み込んでる時くらい。
「……木南?」
水乃の肩が僅かに揺れた。
やっぱり。
「なんで今、木南のことが出てくるの?」
「…………」
「俺、お前に話したよな……?」
「……うん」
「言えなかった理由も」
「分かってるよ」
「木南のこと好きなわけじゃないってことも」
「……分かってる」
だったら。
本当に意味が分からない。
「じゃあ何?」
「…………」
「分かってんなら、何でまだ木南のことで俺から離れんの?」
「違うの」
「何が」
「早手が木南さんを好きとか、そういうことじゃなくて……」
「じゃあ何なんだよ」
水乃が言葉を止める。
俯いたまま、膝の上で指を握っている。
「……木南さんは」
「うん」
「…………」
続きは出てこなかった。
「木南が何?」
「……何でもない」
「水乃」
「ごめん」
また、それ。
俺には言わない。
でも。
今の一言だけで十分だった。
木南は――。
その続きに、水乃が俺から離れようとしてる理由がある。
なのに、それを俺には言おうとしない。
「……明後日」
水乃がゆっくり顔を上げる。
「慎とは行くんだ?」
「……うん」
「俺が行ってほしくないって言っても?」
少しだけ間があった。
「……行く」
「…………」
それ以上、行くなとは言わなかった。
言ったって、水乃は行く。
それより。
聞きたいことは別にあった。
「……何で慎なの?」
「え……?」
「俺から離れて、何で慎の方行くの?」
「慎の方に行くとか、そういうんじゃ……」
「じゃあ何」
「…………」
水乃はまた俯いた。
「私も……このままじゃダメだから」
「何が?」
「ちゃんと、前に進まなきゃって思ってる」
「…………」
前に進む。
その言葉を聞いた瞬間。
胸の奥が冷たくなる。
「……それって」
声が上手く出なかった。
「俺のこと、忘れようとしてんの?」
「…………」
水乃は答えない。
「水乃」
「……慎は」
俺の問いには答えないまま、水乃が続ける。
「ずっと待ってくれてるから」
「…………」
「ちゃんと気持ちも伝えてくれて……それなのに私、ずっと曖昧なままで」
水乃の指が、ぎゅっと重なる。
「だから……ちゃんと向き合わなきゃって思ってる」
「慎と?」
「……うん」
水乃が頷く。
でも。
その顔は、これから好きな男とデートに行くやつの顔には見えなかった。
嬉しそうでも。
楽しそうでもない。
むしろ、苦しそうで。
何かを必死に諦めようとしてるみたいで。
「……水乃」
「…………」
「お前、本当に慎のこと見ようとしてんの?」
水乃が俺を見る。
「それとも」
言いながら。
嫌な予感がした。
「……俺のこと見ないようにしてるだけ?」
