beautiful love ★ 俺様boyと天然girl

早手Side

「……早手?」

俺の両手に頬を包まれたまま、水乃が戸惑ったように俺を見る。

さっきまで慎を追っていた目が、今は俺だけを見てる。

それだけで少し落ち着くのに、同時に、何でここまでしないと俺を見ないんだよって腹も立つ。

「……最近、慎ばっかじゃん」

「え……?」

「俺とは全然話さねぇのに」

水乃の目が僅かに揺れた。

「そんなこと……」

「あるだろ」

学校でも、最近は慎といることが多い。

気づけば慎が隣にいて、普通に話して、笑ってる。

なのに俺とは、まともに話さないまま1日が終わることだってある。

俺から話しかければ返してくれる。

でも、水乃から俺のところへ来ることはほとんどなくなった。

「……何であいつとはそんな一緒にいんの?」

「慎とは……普通に話してるだけだよ」

「じゃあ俺とも普通に話せよ」

「…………」

「俺が話しかけなかったら、最近ほとんど話さねぇじゃん」

「それは……」

また言葉が止まる。

それが答えみたいに思えて、余計に苦しくなる。

水乃の頬に触れていた手をゆっくり離した。

「……俺と一緒にいるの、嫌なの?」

「え……?」

「だから避けてんの?」

「違うよ」

「じゃあ何で」

「…………」

「俺は一緒にいたいって言ってんじゃん」

水乃は何も言わない。

好きだって言った。

諦めないって言った。

一緒にいたいって言った。

それでも水乃は、俺から少しずつ離れていく。

「……明後日」

水乃の指先が止まった。

「慎とどっか行くの?」

「…………」

「さっき聞こえた」

少し間があって、水乃が小さく頷いた。

「……うん」

「2人で?」

「……うん」

「デート?」

今度はすぐに返事がない。

「水乃」

「……うん」

胸の奥が一気に重くなる。

分かってた。

分かってたはずなのに。

本人の口から聞くと、全然違う。

「……どこ行くの」

「まだ……ちゃんとは決めてないけど」

「どこ」

「だから、まだ――」

「どこだよ!」

思わず声が大きくなった。

水乃が驚いたように俺を見る。

「……何でそんな怒るの」

「怒るだろ」

「何で?」

「何でって……」

本気で分かんねぇの?

俺が水乃のこと好きなの知ってて。

慎と2人でデートするって聞かされて。

それを何とも思わないとでも思ってんの?

「どこ行くかくらい言えよ」

「……早手には関係ないじゃん!」

「…………」

水乃の声も大きくなった。

その言葉に、一瞬何も言えなくなる。

関係ない。

俺が。

水乃のことをこんなに好きなのに。

「……関係」

声が低くなる。

「あるだろっ……!!」

水乃の肩が揺れた。

「俺、お前のこと好きなんだけど!」

「…………」

「諦めねぇって言っただろ!」

「……分かってるよ」

「一緒にいたいって何回も言ってんじゃん!」

「分かってるって……!」

「じゃあ関係ないとか言うなよ!」

「だって……!」

水乃も負けないくらい強い声を返してくる。

「早手だって……!!」

「…………」

そこで水乃が止まった。

何かを言いかけたまま、俺から目を逸らす。

「……何?」

「…………」

「早手だって、何?」

「……何でもない」

「何でもなくねぇだろ」

「…………」

言おうとしない水乃を見つめているうちに、頭に浮かんだ。

「……木南?」

水乃の目が揺れる。

「…………」

「木南?」

もう一度名前を出す。

やっぱり水乃は何も言わない。

「なんで今、木南のことが出てくるの?」

「…………」

意味が分からなかった。

いや。

前なら分かる。

俺が何も話せなかった時なら。

木南から連絡が来ても理由を言えなくて、水乃が何も知らなかったあの時なら。

でも。

「俺、お前に話したよな……?」

水乃がゆっくり顔を上げる。

「言えなかった理由も」

「…………」

「木南の家のことも。俺が何であいつの話聞いてたのかも」

あの日。

ここで。

俺は水乃に話した。

全部じゃなくても、今まで言えなかったことを話した。

木南が家のことでずっと悩んでたこと。

俺に連絡してきてた理由も。

今はもう大人が動いてることも。

それに。

俺の気持ちが木南に向いたことなんてないって。

ちゃんと伝えたつもりだった。

「……まだ、俺と木南のこと疑ってんの?」

「違うよ」

水乃がすぐに首を振る。

「じゃあ何?」

「…………」

「何で木南が出てくんの?」

「それは……」

また。

水乃の言葉が止まる。

「水乃」

「…………」

「俺、ちゃんと話したじゃん」

自分でも、さっきまでとは少し違う声になったのが分かった。

怒ってる。

慎とデートすることにも。

俺には関係ないって言われたことにも。

でも。

それより。

あの日、俺なりにちゃんと水乃に話したことまで届いてなかったみたいで。

それが一番、引っかかった。

「それでもまだ、木南のことで俺から離れてんの?」

「…………」

水乃は答えなかった。

ただ、苦しそうに俺を見ていた。