水乃Side
木南さんから早手まで取ってしまうような気がした。
「…………」
そんなことを考えるのは、おかしいのかもしれない。
早手は物じゃない。
誰かが譲ったり、誰かが取ったりするようなものじゃない。
それに。
早手が誰と一緒にいたいのか。
その答えなら、私はもう何度も聞いてる。
――好きなんだよ。
――俺に振り向かせてみせる。
――諦めねぇから。
あの日。
保健室で、早手はちゃんと言ってくれた。
そのあとだって。
一緒に帰りたいって言ってくれた。
私が離れようとするたびに、早手の方から近づいてきてくれた。
昨日だってそう。
――お前、また俺のこと避けてるだろ?
気づかれてた。
それでも早手は。
私を嫌いになったわけでも、諦めたわけでもなくて。
それどころか、前よりずっと真っ直ぐに私のところへ来ようとしてくれてる。
本当は嬉しい。
嬉しくないわけがない。
だって私も。
まだ早手が好きだから。
「……水乃ちゃん?」
木南さんの声で、はっと顔を上げた。
「ご、ごめん」
「ううん」
木南さんは少し不思議そうに私を見ていた。
「大丈夫?」
「……うん」
大丈夫。
そう答えながら、制服のスカートの上で手を握る。
言わなくてもいい。
何も言わずに、このまま話を終わらせてもいい。
なのに。
さっきからずっと。
木南さんの言葉が頭から離れなかった。
――早手がいてくれて、すごく心強かった。
――やっぱり早手と話すと、安心するんだ。
「…………」
私には。
慎がいる。
優希もいる。
真澄だっている。
家に帰れば、お姉ちゃんもいる。
何かあった時、話を聞いてくれる人がちゃんといる。
でも木南さんは。
ずっと1人で抱えてた。
誰にも言えなくて。
やっと頼れた相手が、早手だった。
だったら。
「……あのね、木南さん」
「ん?」
声が少し震えた。
一度、息を吸う。
「私と早手……」
そこまで言って、言葉が止まった。
口にするのが、思っていたより苦しい。
もう何週間も前のことなのに。
自分から言ったことなのに。
――別れよう。
あの時の早手の顔が、今でも忘れられない。
「……水乃ちゃん?」
「私と早手ね」
もう一度、言い直す。
「……もう、別れてるよ」
「…………え?」
木南さんの目が大きくなる。
「……別れた?」
「うん」
「いつ……?」
「文化祭より、少し前」
「…………」
木南さんは何も言わなかった。
驚いたまま、私を見てる。
「だから……」
続きを言おうとした時。
「でも」
木南さんの声が重なった。
「早手、水乃ちゃんのこと――」
「大丈夫」
反射的に、その先を止めてしまった。
聞きたくなかった。
今、木南さんの口から。
早手が私を好きだって。
そんなことを言われたら。
せっかく決めようとしてる気持ちが、また揺らいでしまう。
「……私のことは、気にしなくていいよ」
「…………」
「もう別れてるから」
自分で言った言葉なのに。
胸の奥が、ずきっと痛んだ。
木南さんはまだ、何か言いたそうにしてる。
「でも……」
「本当に大丈夫」
無理やり笑った。
ちゃんと笑えてるかなんて、自分でも分からない。
「だからね」
喉の奥が詰まる。
それでも、言わなきゃ。
「これからも……早手のこと、頼ってあげて」
「…………」
木南さんが目を見開いた。
「え……?」
「早手、ああ見えて放っておけないから」
少しだけ笑う。
「困ってるって分かったら、絶対ほっとけないの」
そんなこと。
私が一番知ってる。
小さい頃から、ずっと一緒にいたから。
ぶっきらぼうで。
口も悪くて。
自分勝手で。
すぐ怒るし。
嫉妬したら面倒くさいし。
俺様で。
なのに。
本当に誰かが困ってる時は、絶対に見捨てない。
「だから……木南さんも、無理しないで」
「…………」
「何かあったら、早手に話していいと思う」
言うたびに。
自分で自分の胸を締めつけてるみたいだった。
本当は嫌。
早手の隣に、他の女の子がいるのなんて。
今だって嫌だよ。
早手が木南さんから連絡をもらうのも。
2人で話すのも。
木南さんが早手を頼るのも。
全部。
嫌。
それでも。
「早手がいてくれたら……安心するんでしょ?」
「……うん」
木南さんが、小さく頷いた。
その答えを聞いて。
胸が苦しくなった。
「だったら……」
声が震えそうになって、唇を噛む。
「これからも、頼っていいんだよ」
「…………」
「私に遠慮しなくていいから」
木南さんは、すぐには答えなかった。
ただ、じっと私を見てる。
「……水乃ちゃん」
「ん?」
「それって……」
少し迷ってから。
「本当に、水乃ちゃんが思ってること?」
「…………」
胸が止まりそうになった。
何も答えられない。
木南さんの目から逃げるように、少しだけ視線を落とした。
「……うん」
やっと出た声は。
自分でも分かるくらい、小さかった。
木南さんから早手まで取ってしまうような気がした。
「…………」
そんなことを考えるのは、おかしいのかもしれない。
早手は物じゃない。
誰かが譲ったり、誰かが取ったりするようなものじゃない。
それに。
早手が誰と一緒にいたいのか。
その答えなら、私はもう何度も聞いてる。
――好きなんだよ。
――俺に振り向かせてみせる。
――諦めねぇから。
あの日。
保健室で、早手はちゃんと言ってくれた。
そのあとだって。
一緒に帰りたいって言ってくれた。
私が離れようとするたびに、早手の方から近づいてきてくれた。
昨日だってそう。
――お前、また俺のこと避けてるだろ?
気づかれてた。
それでも早手は。
私を嫌いになったわけでも、諦めたわけでもなくて。
それどころか、前よりずっと真っ直ぐに私のところへ来ようとしてくれてる。
本当は嬉しい。
嬉しくないわけがない。
だって私も。
まだ早手が好きだから。
「……水乃ちゃん?」
木南さんの声で、はっと顔を上げた。
「ご、ごめん」
「ううん」
木南さんは少し不思議そうに私を見ていた。
「大丈夫?」
「……うん」
大丈夫。
そう答えながら、制服のスカートの上で手を握る。
言わなくてもいい。
何も言わずに、このまま話を終わらせてもいい。
なのに。
さっきからずっと。
木南さんの言葉が頭から離れなかった。
――早手がいてくれて、すごく心強かった。
――やっぱり早手と話すと、安心するんだ。
「…………」
私には。
慎がいる。
優希もいる。
真澄だっている。
家に帰れば、お姉ちゃんもいる。
何かあった時、話を聞いてくれる人がちゃんといる。
でも木南さんは。
ずっと1人で抱えてた。
誰にも言えなくて。
やっと頼れた相手が、早手だった。
だったら。
「……あのね、木南さん」
「ん?」
声が少し震えた。
一度、息を吸う。
「私と早手……」
そこまで言って、言葉が止まった。
口にするのが、思っていたより苦しい。
もう何週間も前のことなのに。
自分から言ったことなのに。
――別れよう。
あの時の早手の顔が、今でも忘れられない。
「……水乃ちゃん?」
「私と早手ね」
もう一度、言い直す。
「……もう、別れてるよ」
「…………え?」
木南さんの目が大きくなる。
「……別れた?」
「うん」
「いつ……?」
「文化祭より、少し前」
「…………」
木南さんは何も言わなかった。
驚いたまま、私を見てる。
「だから……」
続きを言おうとした時。
「でも」
木南さんの声が重なった。
「早手、水乃ちゃんのこと――」
「大丈夫」
反射的に、その先を止めてしまった。
聞きたくなかった。
今、木南さんの口から。
早手が私を好きだって。
そんなことを言われたら。
せっかく決めようとしてる気持ちが、また揺らいでしまう。
「……私のことは、気にしなくていいよ」
「…………」
「もう別れてるから」
自分で言った言葉なのに。
胸の奥が、ずきっと痛んだ。
木南さんはまだ、何か言いたそうにしてる。
「でも……」
「本当に大丈夫」
無理やり笑った。
ちゃんと笑えてるかなんて、自分でも分からない。
「だからね」
喉の奥が詰まる。
それでも、言わなきゃ。
「これからも……早手のこと、頼ってあげて」
「…………」
木南さんが目を見開いた。
「え……?」
「早手、ああ見えて放っておけないから」
少しだけ笑う。
「困ってるって分かったら、絶対ほっとけないの」
そんなこと。
私が一番知ってる。
小さい頃から、ずっと一緒にいたから。
ぶっきらぼうで。
口も悪くて。
自分勝手で。
すぐ怒るし。
嫉妬したら面倒くさいし。
俺様で。
なのに。
本当に誰かが困ってる時は、絶対に見捨てない。
「だから……木南さんも、無理しないで」
「…………」
「何かあったら、早手に話していいと思う」
言うたびに。
自分で自分の胸を締めつけてるみたいだった。
本当は嫌。
早手の隣に、他の女の子がいるのなんて。
今だって嫌だよ。
早手が木南さんから連絡をもらうのも。
2人で話すのも。
木南さんが早手を頼るのも。
全部。
嫌。
それでも。
「早手がいてくれたら……安心するんでしょ?」
「……うん」
木南さんが、小さく頷いた。
その答えを聞いて。
胸が苦しくなった。
「だったら……」
声が震えそうになって、唇を噛む。
「これからも、頼っていいんだよ」
「…………」
「私に遠慮しなくていいから」
木南さんは、すぐには答えなかった。
ただ、じっと私を見てる。
「……水乃ちゃん」
「ん?」
「それって……」
少し迷ってから。
「本当に、水乃ちゃんが思ってること?」
「…………」
胸が止まりそうになった。
何も答えられない。
木南さんの目から逃げるように、少しだけ視線を落とした。
「……うん」
やっと出た声は。
自分でも分かるくらい、小さかった。
