beautiful love ★ 俺様boyと天然girl

水乃Side

あの日から、何日か経った。

早手とは、普通に話してる。

話しかけられたら答えるし、部活でもいつも通り。

……そのつもりだった。

「水乃」

「え?」

振り返ると、すぐ後ろに早手がいた。

「今日、一緒に帰ろ?」

「…………」

一瞬、嬉しいって思った。

前だったら、きっとすぐに頷いてた。

でも。

木南さんのことが頭に浮かんだ。

「……今日はいい」

「なんで?」

「ちょっと……寄るところあるから」

「どこ?」

「え?」

「どっか寄るんだろ?」

「……うん」

嘘。

別に、どこにも寄らない。

「じゃあ俺も行く」

「え?」

「一緒に行けばいいじゃん」

「いや……いいよ。1人で行くから」

そう答えると、早手の眉が少し寄った。

「……俺が行ったらダメなの?」

「そういうわけじゃ……」

「じゃあ行く」

「早手」

「何?」

「大丈夫だから」

「俺は一緒にいたいんだけど」

「…………」

さらっと言われて、胸が大きく鳴る。

「寄るとこあるなら付き合うし、無理なら終わるまで待つ」

「待たなくていいよ」

「なんで?」

「なんでって……」

「俺、水乃と帰りたいって言ってんだけど」

困ったように見つめられて、何も言えなくなる。

本当は私だって一緒に帰りたい。

なのに。

「……今日は、ごめん」

「…………」

早手が黙った。

さっきまで少し拗ねたような顔をしてたのに、その表情がすっと消える。

「……最近さ」

「え?」

早手がまっすぐ私を見る。

「お前、また俺のこと避けてるだろ?」

「……避けてないよ」

「嘘つけ」

すぐに返されて、言葉に詰まる。

「俺が話しかけたら普通に喋るけど、自分から全然来なくなったじゃん」

「…………」

「帰ろって言っても断るし」

「それは今日たまたま……」

「たまたまじゃねぇだろ」

少し低くなった声に、胸が苦しくなる。

「何でまた離れようとしてんの?」

「……離れようとしてないよ」

「じゃあ一緒に帰ろ?」

「…………」

答えられない。

早手はしばらく私を見ていた。

「……ほら。やっぱ避けてんじゃん」

「…………」

何も返せないままでいると。

「水乃! 帰るぞー!」

聞き慣れた声が廊下に響いた。

振り返ると、慎がこっちに向かって歩いてくる。

「慎……」

「何してんの? 帰ろ――」

「こいつ、寄るところあるから」

私が答えるより先に、早手が口を挟んだ。

「え、そうなの?」

慎が私を見る。

「う、うん……」

「じゃあ、寄って帰るか」

「え?」

当たり前みたいに言った慎に、早手の眉がぴくっと動いた。

「1人で行きたいらしいから」

「…………」

「…………」

慎が早手を見る。

「いや、水乃に聞いてんだけど」

「だから、1人で行きたいって」

「早手……」

「何?」

「何で早手が答えるの?」

「さっき聞いたから」

「だからってお前が答えなくてもいいだろ」

「同じだろ」

「同じじゃねぇよ」

慎が呆れたように笑う。

その横で、早手は全然笑ってなかった。

「で、水乃。ほんとに1人で行くの?」

慎に聞かれて、私は小さく頷いた。

「……うん」

「そっか。じゃあ俺、先――」

「終わったら連絡して」

今度は早手が私を見る。

「え?」

「迎え行く」

「そこまでしなくていいよ」

「俺がしたいの」

「でも……」

「水乃」

少し強く名前を呼ばれて、言葉が止まる。

「俺、最近ずっと我慢してんだけど」

「……え?」

「一緒に帰りたいくらい、いいだろ」

胸が苦しくなる。

早手はこんなにまっすぐ来てくれてる。

それなのに、私はまた離れようとしてる。

「……ごめん」

「またそれ」

早手は不満そうに私を見る。

「謝ってほしいんじゃないんだけど」

「…………」

少しの間、私を見ていた早手が、諦めたように息を吐いた。

「……じゃあ、また明日」

「うん……」

離れていく早手の背中を、目で追う。

本当は、追いかけたい。

「……水乃」

慎に呼ばれて、ゆっくり振り返った。

「早手となんかあった?」

「……何もないよ」

「そう?」

「うん」

慎は少しだけ私を見たけど、それ以上は聞かなかった。

「じゃあさ」

「ん?」

「前に言ったやつ、覚えてる?」

「前に言ったやつ?」

「デート」

「…………」

思わず慎を見る。

「まだ返事もらってないから」

「あ……」

そうだった。

「別に急かすつもりはないけど」

慎は少し笑って、私を見る。

「まだ、考えてくれてる?」

「…………」

ついさっきの早手の言葉が頭に残ってる。

――お前、また俺のこと避けてるだろ?

――俺は一緒にいたいんだけど。

それなのに、浮かんでくるのは木南さんのことだった。

「……うん」

「え?」

「ちゃんと……考える」

慎が少し驚いた顔をして、それから笑った。

「そっか。じゃあ待ってる」

「……うん」

本当は、早手と一緒に帰りたい。

それでも私は。

また自分から、早手との距離を作ってしまった。