また。
慎。
昨日、あんな話を聞かされたばっかなのに。
「……一緒に帰る約束してんの?」
「う、うん……」
水乃が小さく頷く。
「昨日、途中で帰っちゃったから……。今日、一緒に帰ろうって」
「…………」
「……2人で?」
「え?」
「慎と2人で帰んの?」
「……うん」
その返事を聞いた瞬間、胸の奥が一気にざわついた。
「……最近、慎とよく帰ってんの?」
「毎日じゃないよ」
「じゃあ何回?」
「え?」
「2人で帰ったの、何回」
「そんなの……数えてないよ」
「…………」
数えてねぇ。
その言葉が余計に引っかかる。
「……慎といる時、いつもあんな近ぇの?」
「え?」
「朝も」
今朝。
慎が水乃の額に、自分の額をくっつけてた。
あれを思い出しただけで、また腹が立つ。
「昨日キスして、今日の朝はあれで」
「早手……」
「今度は2人で帰んのかよ」
「…………」
「……俺が平気だと思ってんの?」
「え……」
水乃が俺を見る。
「昨日、あんだけ言っただろ」
「…………」
「慎んとこ行くなって」
「でも……」
水乃が少しだけ眉を下げる。
「私たち、今は付き合ってないし……」
「分かってる」
そんなの。
言われなくても分かってる。
「分かってるけど、嫌なんだよ」
「…………」
「慎と2人で帰んのも」
水乃から目を逸らさない。
「慎がお前に触んのも」
「……っ」
「全部、嫌」
水乃の目が揺れる。
「昨日のキスだって、まだムカついてる」
「早手……」
思い出すだけで腹が立つ。
俺が何週間も水乃に近づくのを我慢してる間に。
慎はずっと水乃の近くにいた。
一緒に文化祭を回って。
笑って。
水乃にキスまでした。
「…………」
俯いた水乃との距離を、少しだけ詰める。
「……水乃」
「……なに?」
「俺の気持ち、分かってるよな……?」
「…………」
水乃がゆっくり顔を上げた。
「昨日、全部言った」
「……うん」
「俺、諦めねぇって言ったよな」
「……うん」
小さく頷いた水乃から、目を逸らさない。
「だったら……」
「…………」
「慎と帰るって聞いて、俺が何とも思わねぇわけないだろ」
「……早手」
「分かってんなら……」
そこまで言って、言葉を止める。
行くな。
慎のところなんか行くな。
俺と帰れ。
そう言いたい。
昨日みたいに、全部ぶつけてしまいたい。
でも。
「…………」
今の俺に、水乃の約束まで無視させる権利はない。
「……いや。いい」
「え……?」
「約束してんだろ」
「……うん」
「行ってこい」
水乃が少し驚いたように俺を見る。
「ただ」
「……?」
「俺が嫌なのは、覚えとけ」
「……っ」
水乃の頬が、また少し赤くなる。
その時。
「水乃ー!」
体育館の入り口から聞こえた声に、水乃が振り返る。
「慎」
また。
その名前。
慎がこっちへ歩いてくる。
「片付け終わった?」
「うん、今終わったよ」
「そっか。じゃ、帰ろ」
「……うん」
慎が俺に気づいて、こっちを見る。
「早手も今終わり?」
「……まぁな」
「一緒に帰る?」
「帰らねぇ」
思ったより低い声が出た。
慎が一瞬だけ俺を見る。
「……そっか」
それ以上は何も聞かず、水乃の隣に並んだ。
「じゃあね、早手」
「……ん」
2人が歩き出す。
慎が水乃に何か話しかけて。
水乃が慎の方を向く。
近ぇ。
昨日、水乃にキスしたこいつが。
今日も当たり前みたいに、水乃の隣を歩いてる。
「…………」
やっぱ無理。
全然、平気じゃねぇ。
追いかけて。
慎から引き離して。
俺の隣に連れてきたい。
それでも。
足は動かさなかった。
無理やりじゃ意味がない。
水乃が自分で決めなきゃ意味がない。
だから。
絶対。
もう一度。
水乃の方から、俺の隣に来させる。
