「頼ってくるようになったってことは、
ちょっとは気持ち芽生えてるのかもしれんな」
カーテンの向こうから、真澄の声が聞こえる。
「……だといいけど」
「俺、マジだからさ。真澄も応援してよ」
「話は聞く。相談ものってやる。
けど、俺は早手とも連れだ。もちろん、水乃とも」
「こうなった以上、一人だけの肩をもつことはしない。
全員が幸せになれるように、それだけを俺は願ってる」
「……分かってる。ありがとうな!」
「水乃いないし、戻ろっか!」
「そうだな。氷も手に入ったし、そろそろ片付けだろ」
「あーー!俺、最後の椅子運び残ってるんだったー!
戻るぞ!」
2人の足音が遠ざかり、保健室の扉が閉まった。
「…………」
やっと息ができる。
私はすぐにカーテンへ手を伸ばした。
早く、ここから出たい。
カーテンを開けようとした瞬間、背中に早手の体温を感じた。
「……っ」
後ろから腕を回され、そのまま胸の中へ抱き寄せられる。
背中が早手の胸に触れて、伸ばしていた手が止まった。
「……早手……離して……」
早手は何も言わなかった。
私を抱く腕に、少しだけ力がこもる。
しばらくして腕が緩み、身体を向き直された。
そのままベッドに座らされる。
後ろは壁。
目の前には早手がいる。
「…………っ」
早手の顔が、ゆっくり近づいてきた。
何をしようとしているのか分かって。
「……嫌」
その一言で、早手の動きが止まった。
唇が触れる前だった。
「…………」
「……慎ならいいの?」
「……え……?」
「慎には……させたんだろ」
「…………っ」
「そういうわけじゃ……」
「ふざけんな」
低い声が落ちる。
「そういうわけじゃねぇなら、何なんだよ。
慎とはキスできて……俺は嫌なの?」
「違う……っ」
「じゃあ何」
早手の目が、真っ直ぐ私を見る。
「俺のこと……嫌いになった?」
「違う!」
考えるより先に声が出た。
「じゃあ……なんで嫌なんだよ」
「…………っ」
言えない。
言ったら、また全部戻ってしまいそうで。
「……早手にキスされたら……」
涙が頬を伝った。
「また……好きになるから……っ」
早手の目が、大きく揺れた。
「もう嫌なの……。
早手のこと好きでいるの、苦しいの……っ」
「…………」
「早手が木南さんと一緒にいたいなら……いればいいじゃん……」
涙を拭っても、次から次へと溢れてくる。
「私が誰と付き合おうが……早手にはもう関係ないじゃん……っ」
「…………」
「もう別れたんだから……。
私がこの先、誰を好きになっても、誰と付き合っても……」
「早手には関係ないでしょ……っ」
早手が黙り込んだ。
その顔から、さっきまでの怒りが消えていく。
「……悪い」
「…………」
「でも……もう無理」
腕を引かれ、再び早手の胸に抱き寄せられた。
「ずっと我慢してた」
「…………っ」
「お前に関わんなって言われたから……。
慎と一緒にいても、何も言わなかった」
私を抱く腕が、かすかに震えていた。
「でも、その間にどんどん慎に頼るようになって……。
今日、キスまでしたって聞いて……」
「…………」
「これ以上離れてたら……お前、本当に慎の方行くだろ……」
「早手……」
「……もう、我慢できねぇ」
